あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「あの…。ご存知でしたら、教えて頂けませんか? どなたが、このような事を貴方達に頼まれたのか」
男は痛みをこらえてヒカルを見た。
ヒカルはあれだけ男達を交わしたにもかかわらず、疲れた様子もなく余裕にある表情を浮かべている。
そんなヒカルを見ると男は完全に負けたと痛感した。
「…千堂里奈と言う女…。昔から、俺達とつるんでいる…。大金を渡してきて、気に入らない奴を襲えと命じてくる女だ…」
「なるほど、そうでしたか。教えて頂き、有難うございました」
ニコッと、ヒカルが笑いを浮かべるとパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
「おやおや、どうやらどなたかが通報されたようですね。こんなお昼間から、堂々と襲ってくるのはあまり良くないと思われますよ。でも、警察に捕まった方が、貴方達の身の安全は保障されると思いますね」
「なに? 」
「貴方達に命じた方は、失敗した事を知ればきっと報復してくるでしょうから。暫くは、安全地帯にいた方がいいでしょう。きっと、貴方達の目も覚めるでしょうから」
それだけ言うと、ヒカルはその場から去って行った。
遠くから複数の警察官が走ってくるのが見えてきた。
ヒカルは走って来る警察官を背に、そのまま去って行った。
「千堂里奈…。相変わらずだ…」
そう呟いたヒカルの目は、とても怖くて悲しみに包まれていた…。
ヒカルが歩いてオフィスビルまでやって来ると、前方から歩いてきた奏弥が現れた。
「城原さん」
声をかけて来た奏弥に気づいて、ヒカルは慌てて眼鏡をかけた。
メガネをかけるといつものヒカルに戻った。
「社長、お疲れ様です」
いつものようにナヨっとした笑みを浮かべたヒカル。
奏弥はちょっと厳しそうな目をして、ヒカルに歩み寄って来た。
「城原さん、お昼はもう食べた? 」
「あ…はい。食べました」
そう言ったヒカルだが、総菜パンを買って戻ろうとした時に男達に襲われてしまい、せっかく買ったパンはぐちゃぐちゃになり食べ損ねていた。
しかしもう、お昼休みも半分もない。
今更買いに行っても食べる時間がないだろうと、あきらめたのだ。
奏弥はじっとヒカルを見つめたまま歩み寄って来た。
「城原さん…病院に行こうか」
「え? 」