あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
スッと、ヒカルの手をとった奏弥。
その手には何かで切られたような傷が残っていて、血がにじみ出ていた。
深くはないようだがかすり傷でもない状態の傷を見て、奏弥は厳しい目でヒカルを見つめた。
「こんな怪我をしては、いけないと思うよ」
そう言いながらポケットからハンカチをとりだし、ヒカルの手に巻いた奏弥はそのままギュッとヒカルを抱きしめた。
な…なんなの?
驚いたヒカルだが、奏弥の腕の中はとても暖かくまるで父親に抱きしめられているようで心地よく何故かホッとさせられた。
「とりあえず、病院に行こう。それから、もう一度総菜パンを買いに行こう」
なに? もしかして、見ていた? 今の…。
そう尋ねたかったヒカルだが、黙って奏弥に手をひかれ素直に病院に連れていかれた。
通りでタクシーを拾って、そのまま病院へ向かった奏弥とヒカル。
午後からの仕事が始まり、里菜は依頼した男からの連絡を待っていたが一向に音沙汰なしでイライラしていた。
何度か男の携帯に電話をかけたが、電源が入っていない為繋がらなかった。
15時を回る頃。
奏弥に連れられてヒカルが病院から戻って来た。
右手にちょっと大げさに包帯を巻かれてしまったヒカルは、ちょっと恥ずかしそうな目をしていた。
15時の休憩になり、里菜はイライラしながらエントラスに降りて来て一人受付の待合室でタバコを吸っていた。
奏弥に連れられて帰って来たヒカルを見て、なんともない姿に驚いて目を疑った里菜。
「どうして? まさか、あいつ等失敗したの? 」
里菜の見る方向からはヒカルの右手が隠れて見えなかった。
「…なかなかしぶといわね。…でも、次はどうかしら? 」
性懲りもなく里菜は、また携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。
「もしもし? 久しぶりね。どう? 最近、誰かを殺したくてうずうずしていない? …ええ、とっても獲物がいるわよ。…そうね、100万でどう? 成功したら、上乗せしてプラス100マン払うわよ。…ええ、いいわ。じゃあ、今から詳しい事をメールで送るわね。…え? 名前? …標的は、城原ヒカルって男。…まったくもって酷いのよ、私の事を弄んで捨てたの。たっぷり仕置きしてあげてね。…じゃあ、宜しくね…」
電話を切った里菜は不敵に微笑んだ。
「次は容赦しないわよ。あんなチンピラとは、わけが違うから…」
勝ち誇ったかのように笑いを浮かべた里菜は、まるで魔女のような目をしていた。
だが…。
里菜が座っている真下には、何やら赤く点滅している小型の黒い機会がついていた。
里菜はそれに気づくことなく、タバコを吸い終えるとそのまま去って行った。