あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
社長室に戻って来たヒカルは、いつも通り仕事をしていた。
「はい、どうぞ」
奏弥がヒカルに暖かい珈琲を入れてくれた。
「申し訳ございません、気を使わせてしまいまして」
「いや、気にしないで。それより、ちょっとゆっくり話したいのだけど。いいかな? 」
どうゆう事なのか、詳しく聞き出したいのだろうあの現場を見てしまったのなら。
ヒカルは軽く頷いた。
奏弥はヒカルのデスクの前に椅子を持ってきて座った。
「先ず、ちょっと疑問と言うか。違和感がある事を確認したいのだけど」
じっと見つめて来た奏弥に、ヒカルはドキッとした。
見つめる眼差しが聖龍と似ていて、あのキスを思い出してしまったのだ。
「城原さんは…男性? 女性? どっちかな? 」
あ…。
どうしよう…ここは男性として通した方がよさそうだけど。
社長の目を見ていると嘘はつけないような気がする。
何かあった時、社長にだけは本当の性別を知らせておいた方がいいのかもしれない…。
「…自分は…女です…」
ちょっと恥ずかしそうにヒカルは答えた。
「そっか、安心したよ」
安心した? 何故?
「嫌ね、初めは声も渋いし男性だと思ったんだけど。なんか違うって思ったんだけどね、さっき抱きしめた時に確信したんだ。やっぱり男性じゃなくて、女性だよねって」
「はぁ…そうでしたか…」
「安心していいよ、誰にも言わないから。何か理由があるんだと思うし、城原さんは男性で通しておいた方がいいと思うんだ」
「はぁ…」
別によく間違えられるし、その方が楽だからいいけど…。
「城原さんが女性だって知られてしまうと、きっと女子社員達がすごく嫉妬すると思うんだ。まだ入社して間もないけど、社員達が城原さんに注目しているんだよ。気づいていた? 」
「いえ、全く気付きませんでした」
「私に色々聞いてくる社員が多くてね。なんか、不思議な感じがするようだよ」
「そうですか…」
目立たないようにしているのに、なんでだろう…。
別にどこにでもいるだろうし、地味だと思うんだけど…。
「ねぇ、城原さん。少なくとも、私は城原さんの味方でいたいんだ。だからもう少し教えて欲しいんだけど」
ちょっと厳しい目をして奏弥はヒカルを見つめてきた。