あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
犯罪者の娘とその過去の始まり
「じゃあ、さっそくなんだけど。今夜は、一緒に夕飯に付き合ってくれる? 」
「え? 」
「付き合ってくれるよね? 」
そう言って真っ直ぐに見つめて来た奏弥をみていると、ヒカルは断ることが出来なくなった。
「…分かりました…。でも、夕食だけです。お付き合いするのは」
「勿論、それで構わないよ」
何となく奏弥のペースに巻き込まれてしまった…
そんな感じがしたヒカルだったが、全てを知っている奏弥に近づけば何か自分が知らない情報を得ることが出来るかもしれないと思った。
付き合ってと言われ、てっきり不倫関係を望んでいると思ったが。
ただ食事したりお茶するくらいであれば、構わないのかもしれない。
定時になり。
仕事を終わらせた奏弥とヒカルがエントラスに降りて来た。
「あら、城原さん。元気そうね? 」
里菜が待ち構えていたかのように、ヒカルの傍にやって来てニヤニヤとした目で見てきた。
まるで、よく無傷で帰ってこられたと言わないばかりに見ている里菜を見て、ヒカルは内心怒りが込みあがりそうだったがグッとこらえた。
「良かった、元気で。城原さんの元気な顔、見ておけて嬉しいわ」
自分が仕掛けた事が失敗した負け惜しみだろうか?
だが、威圧的でこれで終わりではないと言っているように感じる。
執念深いと言うか狙った獲物は徹底的に潰すと言ったところだろうか?
まさにそっくりだ…実の親に…。
そう思いながらヒカルが黙っていると、里菜は居直った笑みを浮かべて来た。
「城原さん、今朝の副社長の言った事はぜーんぶ演技だったようよ。あまりにも、社員達が立ち止まって見てゆくから。恥ずかしくなってしまったようなの。貴方はただのダミーで、やっぱり私が本命のようだから。本気にしないでね」
気持ち悪い笑みを浮かべた里菜を見たくなく、ヒカルはそっと視線を反らした。
傍で聞いていた奏弥は呆れた表情を浮かべていた。