あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「もういや…私は、あんたのおもちゃじゃない…。あんたなんか、死ねばいい! 」
グサッ! と、はさみを更に奥まで刺した里菜は狂ったように笑い出した。
真っ青になって倒れこんだ康生を見て、里菜は驚いて息を切らせていたが、だんだんと狂ったように笑い出した。
「…みんな死ねばいいんだ…」
康生の背中からはさみを抜き取った里菜は、血の付いたハサミを見てニヤッと笑いを浮かべた。
外は日が沈みすっかり夜になっていた。
その後。
里菜が引き取られていた親戚の家は、夜中に突然の火事に見舞われ全焼して全員死亡した。
里菜は火災に早く気づいて逃げ出して一人だけ助かった。
出火原因は寝るときにタバコを吸っていて、火の始末をしていなかった父親が原因との事だがそれにしては出火が酷いとも言われた。
身内が全員死亡して里菜は再び児童施設に送られる事になった。
どこかホッとした里菜だが、康生との間に授かった子供をどうしようか迷っていた。
児童施設に入った里菜は転校して別の中学校に通っていた。
そんな時、駅前の歩道橋を歩いていた里菜は通り過ぎた急いでいた人に背中を押されて転落した!
「大丈夫ですか? 」
転落した里菜に声をかけて来た男子生徒がいた。
痛みの中で目を開けた里菜の視界に映ったのは、まだ中学生の聖龍だった。
「しっかりして! 今、救急車呼んだから」
薄れゆく意識の中、里菜にとっては初めて優しい声を聞いたような気がした。
今まで誰も心配してくれた事はなかった。
優しい声もかけてくれなかった。
こんなに心配されるのは初めて…きっとこの人は、運命の人だ…。
痛みの中、里菜は初めて聞いた優しい聖龍の声に運命を感じた。
その後。
病院に運ばれた里菜は、頭を3針縫って右足を骨折して全治3ヶ月ほどの怪我を負ったが命に別状はなかった。
転落した事でお腹の赤ちゃんは流産して、里菜にとっては好都合だった。
「やっとこれで解放される…」
里菜は肩の荷が下りたような気がしていた。
夜の駅前通り。
里菜は一人歩道橋の上にやって来た。
下り階段を見ている里菜は、あの転落した時の事を思い出していた。
「…この階段で裏切者は死んだけど、私は運命が変わって本当に愛し合う人に巡り会えたわ。…あの時、声をかけてくれた聖龍さん…。貴方は私の運命の人よ…。あの忌々しい事実を消してくれたのだもの…」
そっとお腹に手を当て里菜はほくそ笑んでいた。
「邪魔する者は…みんな…死ねばいいのに…」
恐ろしい目をして階段を見つめた里菜は、そのまま黙って去って行った。