あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「自分は城原さんに養女として引き取られました。5つ上の兄がいますが、兄も養子として引き取られて来たそうです。城原さんの奥様は、子供が産めない体だったようで。跡取りとして、兄を赤ちゃんの時に養子に迎えたと聞いています。自分は…小学生の時に母は病気で亡くなりました。そして父は、中学の時に事故で亡くなりました。5つ上の姉も、父より少し前に転落死していて、身寄りがなく。父と元同僚だった城原さんが、養女として引き取てくれたのです」
「そうだったのか…」
アフターの珈琲を飲みながら、奏弥は少し悲しげな目をしていた。
「本当なら、成人したと同時に城原さんの元から去って行くつもりだったのですが。家を出るために、寮つきの就職先を探したのですが。城原さんが猛反対して、家から離れる事を許してくれなかったのです。他人の自分を育ててくれている事に、ずっと申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
「申し訳ないなんて、そんなふうに思う事はないと思うよ。未だに大切にされていると言う事は、とても愛されているからだと思うよ」
「城原さんは、きっと罪悪感から自分の事を養女にしたんだと思います…」
メガネの奥でヒカルの目が辛そうに揺れた。
そんなヒカルを見ると、奏弥は胸がズキンと痛んだ。
(私に万が一何かあった時は、娘の事を頼んでもいいか? )
奏弥は昔からの親友の言葉を思いだした。
それは今から10年ほど前。
奏弥が弁護士時代から親友である神原颯太という男性。
この男性は、奏弥とは真逆の仕事を選び検察官になった。
検察官は被告人を起訴する側で、時折り逆恨みされる事もある事から颯太はいつも奏弥に、自分に何かあった時には残された娘の事をお願いしたいと言っていた。
颯太は早くに妻を亡くし男一人で子育てをしていた。
両親も早くに亡くなっていて頼れる親族が誰もいない事から、自分がいなくなると子供が孤独になってしまう事を心配していた
(心配しなくていいよ、いつでも受け入れるから。我が家にも娘がいるから、大丈夫だよ)
そんな話をしていた時だった。
颯太は仕事の帰り道で刺殺された。
犯人は当時未成年の女子高生だった。
刺した動機は「邪魔だった」とだけ言っていた。
一思いに心臓部を刺され、颯太は死亡した。
颯太が死亡したことを知り、奏弥は金原家に言って残された娘を引き取るつもりだったが、既に他の人の所に養女に行ってしまったと聞かされたのだ。