あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…

「城原さんは、養女に行って。幸せだった? 」

 幸せだった? と尋ねられると、ヒカルは複雑だった。
 特別な嫌な思いはしていないが、ヒカルはいつも申し訳ないと思っている。
 早くに男の子を養子にもらっているのに、自分まで養女に迎えてもらって…。
 病気がちだった奥様を早くに亡くして、男一人で子育てをしているのに負担をかけているとずっと思っていた。
 
 だが幸樹はいつも、ヒカルが危ない目に遭わないようにと運転手に送り迎えを頼みボディーガードも雇てくれている。
 今回、ヒカルが宗田ホールディングで働くことも本当は反対していた幸樹だった。

「幸せかどうか、そう聞かれてしまうと。どちらとも言えないと思います。辛い思いをさせられたことはありませんが、自分はずっと申し訳ないと思って過ごしてきましたので」
「なるほど、そうだったんだ。じゃあさ、思い切って城原さんの元を去ってみるのはどうかな? 」

 何を言い出すの? それが出来るなら、とっくにやっているけど…。
 ギュッと口元を引き締めて黙ってしまったヒカル。

「私は、そんなに申し訳ないって思いながら過ごしていても。城原さんの幸せにはならないと思うよ。養女に引き取った城原さんも、幸せになってほしいと望んでいると思う。でも、きっと何かが違うのだと思う。城原さん自身が、本当は何を望んでいるのかをちゃんと見てあげよう」

 何だろうこの気持ち。
 まるで父に言われているような気持になる。
 
 幸せ…そんな事を考えたことはなかったなぁ…。
 姉さんが亡くなってからずっと…あの人に報復する事しか考えていないから…。
 私は幸せになっていいの?

 ヒカルはい自分に問いかけてみたが、何も答えは聞こえなかった。

「城原さん、答えは焦らなくていいよ。今までずっと、そう思って来たんだから。ゆっくり考えてみて、せっかく我が社に来てくれた事だし。こうして、一緒に食事も出来るようになれたのだから」
 
 こんなはずではなかったのに。
 城原さんの元を離れてみてはと…今更できないって思っていたけど…。

 目的があって宗田ホールディングに入社してきたヒカル。
 聖龍とは関わり合わないと幸樹に約束をしていた。
 だが、何故か聖龍の方から近づいて来てあんな宣言までされてしまった。

 そして奏弥まで近づいて来て…。
 自分の名前がヒカルだから?


 複雑な思いでヒカルは奏弥との食事を終えて、迎えの車を待っていた。


 いつもながらの運転手がヒカルを迎えに来て、助手席から幸樹も降りてきた。

 奏弥は幸樹に名刺を渡して挨拶をした。

「これは、これは。社長様に食事に誘てもらえるなんて、我が子も光栄です」
「いえ、とても優秀な秘書が来てくれて私も非常に助かっております」
「今後とも、どうぞよろしくお願いします」

 挨拶を終えた幸樹が、ヒカルに帰ろうと目で合図をした。

 奏弥に挨拶をして車に向かったヒカルだが、急に足を止めて立ち止まった。
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