あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「どうした? 」
立ち止まったヒカルを見て、幸樹はちょっと驚いた目を向けた。
「…あの…」
いつにない真剣な眼差しを向けて来たヒカル。
「どうかしたのか? 」
幸樹はいつにないヒカルの表情に、ドキッとさせられた。
このドキッとした時は、いつもこの子は私の想定外の事をやりだすときだ。
そう思って幸樹はヒカルの言葉を待った。
「…帰りません。…城原家には…」
「はぁ? 何を言い出すのだ? 」
ヒカルは意を決して幸樹を見つめた。
「以前から申し上げております、養女縁組を解消して下さい。この先は、自分一人で生きて行けますから」
やはり! 想定外な事をやりだした。
まさか、一人で全部背う負うつもりなのか?
「ちょっと待ちなさい。どうしたと言うのだ? 」
歩み寄って来る幸樹に、近づかないでと視線を投げつけたヒカルは眼鏡の奥でちょっと怒った目をしていた。
そんなヒカルを見ると幸樹は立ち止まった。
「…もう嫌です、申し訳ないって思いながら暮らしてゆくのは」
「その事なら、なにも悪くないとずっと言って来たじゃないか」
「でも。…いくら、父の同僚だったからと言って。もう、成人しているのにこれ以上育ててもらう義理は無いと思います」
「ちょっと待て、義理で私はお前を育ててきたわけではない」
「もう嫌なのです。貴方を見ていると、父を思い出すから…」
そう言ったヒカルの目が眼鏡の奥で潤んでいた。
「貴方のせいじゃないのは分かっています。でも…この先の事は、自分の問題なので…。もう、養女として縛られたくありません」
幸樹は何も言わず、スッと視線を落とした…。
「あの…」
傍で見ていた奏弥が歩み寄って来た。
「城原さん。お許しが頂けるのでしたら、暫くお子さんを私に預からせて頂けませんか? 」
ん? と、幸樹の目が厳しくなった。
「私が預かる形でしたら、少しはご安心して頂けると思います。今日は、城原さんは怪我をしているので。少し、気持ちも乱れていると思います。色々と感情も溢れてきているようなので、少し2人も距離を置かれたほうがいいと思います」
幸樹はじっとヒカルを見つめた。
ヒカルの決意は変わらない様子だ。
小さくため息をついた幸樹は、観念したかのように頷いた。
「分かりました。それでは、暫くの間、宗田さんにお願いしたいと思います。でも私は、養女縁組を解消する気は全くありませんので。そのつもりでいて下さい」
「分かりました」
もう一度ヒカルを見た幸樹。