あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
ヒカルは軽く頭を下げると、席に着いた。
「荷物は横にある荷物入れを使ってね。机の一番下の引き出しを、使ってもいいよ」
「分かりました」
言われた通り荷物入れに鞄を置いたヒカルは、渡されたファイルに目を通し始めた。
奏弥はそんなヒカルをそっと見つめた。
もしかしてこの子は凜太郎が好きだと言っていた子ではないだろうか?
体系は違うが、目元がよく似ていて名前も同じだ。
同じ名前だけで別人だろか?
奏弥はヒカルを見て、ふと、凛太朗がまだ生きていた時に携帯電話の写真を見てため息をついていた時の事を思い出した。
高校生の凛太朗が、夜に庭に出て一人で携帯電話を見てため息をついて何か悩んでいる時があった。
そんな様子を見かけた奏弥は、凜太郎の傍に歩み寄って行った。
歩み寄ってゆくと、凛太朗が携帯電話の写真を見ているのが目に入った。
遠くから隠し撮りでもしたのか、目線は違う方向を見ているが太った女子高生が写っていた。
誰もがデブと呼ぶ女子高生だが、太っていても目鼻立ちはしっかりしていて口元も魅力的である。
きっと痩せたらすごい美人になる子だなぁ。
奏弥はそう思った。
ん? と、振り向いた凜太郎は、奏弥がいてびっくりした顔をして慌てて携帯電話をしまった。
「なんだ? どうして隠すんだ? 」
「別に隠してないよ」
「好きな子かい? 」
そう尋ねられると、凛太朗は顔を真っ赤にしていた。
「片想いだから…」
切なそうに凛太朗が言った。
「何で決めつけるんだ? お前の想いは告げたのか? 」
「まだだけど…彼女、体系の事を気にしているから。きっと断られると思う」
「思いを告げる前から、そう決めつけていたら何も変わらないぞ。好きな子がいたら、たとえ相手に彼氏がいても。お前の気持ちを伝えてみる事だ。それでダメでも、想いを告げたところから恋は始まるものだぞ」
「そうなの? 」
「ああ、だって言葉にしないと気持ちは伝わらない。そんなにお前が思いつめるくらいなら、思い切って気持ちを伝えてみるのがいい。断られてもいいじゃないか、きっと言わない方が後悔するぞ」
奏弥に言われて、凛太朗はなんだか勇気が持てた。
「有難う、父さん。彼女に、僕の気持ち伝えてみる」
そう答える凛太朗がとても初々しくて、奏弥は子供が恋をする年頃になったのかと嬉しさを感じていた。