あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
奏弥とヒカルがやって来るのを目にした社員達が振り向き、ハッと驚いた目を向けた。
「あれ? 城原さん…」
「嘘? 城原さんって、てっきり男性だと思っていたけど」
今日のヒカルの服装を見て、社員達の目が変わって行った。
「綺麗な女性だったのですね」
「モデルさんみたい」
「なんだ、じゃあ、あれは全然違う人じゃん」
「そうね。城原さんが、あんな汚い体しているわけないもん」
「良かった」
「城原さん、大丈夫だから気にしないで下さいね」
集まっていた社員達は、安堵の声をかけながらそれぞれの部署へ戻って行った。
「なにこれ…どうゆう事なの? どうして、朝から城原さんが社長と一緒なの? 」
里菜は驚きながらも、何か計画が失敗したのか悔しそうな目をしてヒカルを睨んでいた。
聖龍が歩み寄り、奏弥に詳しい状況を話した。
「そうだったのか。それで、警察には連絡したのか? 」
「今、受け付けの人に頼んだところだけど」
「分かった、後は防犯カメラを見れば分かると思う。まぁ、こんな事をしてくる奴だから。防犯カメラに、まんまと写る真似はしないかもしれないがな」
ヒカルは状況を聞くと、ズキンと胸に痛みを感じた。
ショックを受けたわけじゃないけど、なんだか今日はこの状況が把握されていたかのようで。
昨日もし、奏弥と食していなければヒカルはいつも通り城原家に帰って男性の姿のまま出勤していた。
だが、奏弥と食事をして何故か城原家に帰りたくなくなり、そのまま宗田家に向かった。
着替えを持っていなかったヒカルに、凜が取引先でもらったものだと言って女性物のブラウスとスラックスを用意してくれた。
そのおかげで、騒いでいた社員達がヒカルの事を女性だと気づいてしまったが、貼りだされていた写真が嘘である事が明るみになった。
(…大丈夫。ちゃんと見守っているから…。安心していいよ…)
胸の奥から聞こえてくる声に、ヒカルはハッとなった。