あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
救急車が到着して、救急隊員が男性社員を運び出してゆく。
そんな中。
里菜はヒカルをじっと睨みつけていた。
「…もう…。殺人ごっこは、終わりにしませんか? 」
いつものヒカルの声とは違う…。
低くて太かったヒカルの声が、綺麗な女性の声に聞こえる。
錯覚? 幻聴? 混乱しているせい?
里菜は頭がパニックしてきた。
バタバタと救急隊員が男性社員を運び出している中、ヒカルはちょと冷めた目で里菜を見ていた。
「10年…どれだけ人を殺してきたの? …父を殺しただけでは、物足りない? 」
「な…何を言っているの? 」
真っ青になった里菜を見て、ヒカルはニヤッと笑った。
「もう少し、泳がせてあげる。でも、もう二度と今朝のような事は辞めて下さいね。まだやるようでしたら、本気で行きますから」
ニコッと笑ったヒカル。
その笑顔はいつものナヨっとした笑顔だったが、どこか怖かった。
そのまま去り行くヒカルを、里菜は呆然と見ていた。
その後。
病院に運ばれた男性社員は、頭を3針ほど縫った。
入院するほどではないが、全治3週間と言われた為、暫くの間は自宅療養になった。
里菜は警察に自事情を聞かれたが、何か変なものが見えてバッグを投げたら男性社員い当たっただけで、鞄お腹にとがったものが入っているのは知らなかったと言った。
男性社員は別の部署で里菜とは接点がない、特別な悪意はないとみなされ今回は書類送検で終わる事になった。
問題を起こした里菜をどうするべきか、奏弥は考え込んでいた。
「城原さん、どう思う? 千堂さんの事」
「自分は分かりかねます」
またいつもの低くて太い声にも出っているヒカル。
「千堂さんは、今朝の事もあるからね」
「警察の判断に任せるのが、一番だと思います。現状、警察が事故の可能性が大きいと言われ書類送検で終わらせたのでしたら。これ以上は騒がれることなく、通常の日々に戻す事が一番だと思います」
「確かにそうだね。ちょっと、社員達が動揺しているのもあるけど」
「動揺している時だからこそ、冷静に対応した方がいいと思います。下手に千堂さんに処分を下せば、また何かを仕掛けてくる可能性もないとは言い切れませんから」
「そうだね。城原さんがそう言うなら、とりあえず様子を見る事にするよ」
とても冷静なヒカルに、奏弥はちょっと驚いていた。
朝からあんな騒ぎがあったと言うのに、動揺する事もなく冷静なヒカル。
本当に蒼汰君にそっくりだ。
彼も何があっても動じることなく、冷静な人だったからね。
奏弥はヒカル見てそう思った。