あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
しかしその数日後に、凛太朗は転落死した…。
あれから10年かぁ…。
あの写真の子も、大人になって随分変わってしまっただろうな。
いやいや。
ここにいる城原ヒカルさんは、男性だ。
凛太朗が好きだった子とは違うだろう…私は何を勘違いしているのだろう…。
何かの気の迷いで重ねてしまったのだと、奏弥は気持ちを切り替え自分のパソコンに目をやった。
コンコン。
「失礼します」
年増の声がして入って来たのはゴッツイ感じの中年男性。
シンプルな黒いスーツに身を包んでいる。
この男性は経理部長の金森一(かねもり・はじめ)という。
宗田ホールディングに勤務してもう30年以上である。
「社長。新しく入社してきました社員を連れてきました」
と、一の後ろから現れたのは派手な金髪の髪にオフィスには甘い相応しくない赤いワンピースに赤いハイヒールを履いて、派手なメイクをした女性だった。
「初めまして社長。私、千堂里奈(せんどう・りな)と申します」
いかにもぶりっ子したような声色で挨拶をした里菜に、奏弥はちょっと嫌悪感を感じていた。
「初めまして、社長の宗田です」
「はい、よく存じ上げております。私、社長の息子様である聖龍さんとは同級生でしたから」
ニコっと笑った里菜。
その笑顔はまるで魔女の笑みのように不気味だった。
派手なメイクのせいで、笑うと目じりに小じわが出来てアイラインが濃いせいか目の下にはクマのように黒色がついている。
「聖龍さんとは中学からのお付き合いですから。よく存じ上げてります」
「中学から? 」
「はい、社長はご存知ではありませんか? 私、聖龍さんとは結婚の約束をしているのです」
はぁ?
奏弥は呆れたように驚いた。
「千堂さん、今はそんな話はやめよう」
一が止めると、里菜は気に入らないように睨みつけた。
「本当の事ですから、いい機会ですよ。社長にも知ってもらう必要があるじゃないですか。部長も知っててくださいね、私、将来は社長夫人になりますから」
すっかり自分の世界だけで話している里菜に、一は呆れてしまった。
傍で聞いていたヒカルは、ファイルを読みながら口元で小さく笑いを浮かべていた。