あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「さぁ、そろそろ戻らないと。城原さん、一緒に行きましょう」
「い、いえ…」
「戻る方向は同じじゃないですか」
「そうですが…」
「それじゃあ、一緒に戻りましょう」
珈琲を飲み終えると、ヒカルは聖龍と一緒に戻って行った。
午後からもいつも通り仕事が始まった。
里菜は取り調べなどもあり午後から早退していた。
取り調べの帰り道、一人イライラしながら歩いていた里菜は警察署から出て門へ続く並木道を歩いていた。
新緑が綺麗にに輝く並木道。
そんな光景を見ていると、誰もが心落ちくだろうと思われるが、里菜にとっては嫌な思い出ばかりが蘇る。
「あれからもう10年…」
ふと足を止めた里菜は、木々の隙間から広がる木漏れ日を見上げた。
「…あの人なら分かってくれるかもしれないって、期待したのに…」
(だからと言って、人を殺して良い事ではない。ここは素直に、自分のやった事を認める事が先だ)
アクリル板で出来た壁越しに優しい男性の声がそう言った。
10年前。
里菜が高校生の時だった。
中学生の頃に養女に行った先が火災になり、児童施設に引き取られた里菜は再び養女へ引き取られた。
エリート一家で子供に恵まれず、高校生くらいの女の子を養女に欲しいと願い出て来た事から中学3年生の里菜が選ばれ大歓迎され養女として引き取られた。
引き取られた先は千堂家。
代々続く医師家系で、財閥に筆頭するほどのお金持ちで金奈市の外れに大きなお屋敷のような一軒家を構え、お手伝いが5人、運転手が3人、執事のような男性が一人いた。
党首である千堂吉幸(せんどう・よしゆき)は、名医師で名の通る人物で世界中を飛び回っていた。
妻の千秋(ちあき)は元看護師で、勤務先で吉幸と知り合い結婚した。
だが15年経過しても子供に恵まれず、検査の結果、吉幸の無精子症である事が判明した。
医師として長年勤務していてて、レントゲンなどにも関わっていた事が原因か? と言われたが詳しい事は不明だった。