あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「社長、ついでにお願いがあるのですが」
「お願いとは? 」
「私、経理ではなく。聖龍さんの秘書にしてもらえませんか? 結婚するのですから、傍にいるのが当たり前だと思います」
秘書?
経理希望だと自分から申し出ていたのではないのか?
奏弥がちょっと戸惑っと目で見ていると、里菜はムスっとした目を向けてきた。
「てっきり、私は聖龍さんの秘書として働けるものだと思っていました。それなのに、経理に配属されたのですよ」
チラッと一を見た奏弥。
一は呆れたような目をしていた。
「すまないけど、副社長は今は秘書をつけていないんだ」
「え? どうしてですか? 」
「一人で仕事をしたいと言っているから、必要な時は声をかけさせてもらうよ」
里菜は気に入らないような顔をして、小さく舌打ちをした。
そしてチラッとヒカルを見た。
「あら、社長の秘書は随分と地味な人を雇っていらっしゃるのですね。なんだか、さえない男だわ」
男?
奏弥はチラッとヒカルを見た。
ヒカルは何も気に留めていないようで、ファイルを読み続けていた。
「千堂さん。もういいから、他の部署の案内するよ。社長、失礼しました」
一は早々に社長室を出て行った。
里菜はヒカルを見て小ばかにするように、クスッと笑って出て行った。
「城原さん、すまないね気を悪くさせてしまって」
「お気になさらず。言われなれていますから」
慣れている? どして?
と、奏弥は聞きたかったがあえて黙っていた。
「ファイル、読み終わりました」
「ああ、じゃあこの資料をまとめてもらいたいのだけど」
少し分厚い冊子を渡されたヒカル。
「畏まりました。どのように、まとめればいいでしょうか? 」
「会議用だから、重要事項は赤丸がついているから」
「畏まりました」
「まとめたら、オレンジ色の共有ファイルに名前を付けて保存してくれたらいいから」
「承知しました」
奏弥はヒカルのデスクの上のパソコンを立ち上げた。
「パスワードはここに貼ってあるけど、できれば見えない場所に隠しておいてほしい。フォーマットは、これを使ってくれればいいよ」
「はい」
スラスラと資料をまとめ始めるヒカルを横目で見ながら、奏弥も仕事の続きを始めた。