あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「愛香里、もしかして凛太朗君と会ったの? 」
「あ、いえ…。会ったと言うより、通りすぎるのを見ただけだよ」
「そっか。ねぇ、今度凛太朗君に紹介しようか? 」
「いやいや、とんでもない。見ているだけで幸せだから」
「どうして? 想いはちゃんと言わないと、伝わらないよ。せっかく近くまで来ているのに」
「いいよ、私は。こんな体だし、いつどうなるか判らないもん」
寂しそうに答えた愛香里。
そんな愛香里を見て太ったヒカルはいつも、なんとか凛太朗と愛香里を引き合わせてあげたいと願っていた。
そんな時だった。
愛香里が駅前を歩いていると、偶然出会った凛太朗に驚いて何故か逃げてしまった。
「ちょっと待って! 」
追いかけて来た凛太朗だったが、どんどん愛香里との距離は遠くなるばかりで。
その後、歩道橋から転落して救急車で運ばれて行った。
その様子をニヤッと笑って見ていた里菜が歩道橋の上にいた…。
私のせいだ…私が呼ばれて素直に立ち止まっていれば、凛太朗さんは転落しなくて済んだのに…。
そう思う中、愛香里はふと気づいた。
逃げるために走って来たのに全く苦しくない事に。
医師から激しい運動は止められていて、ちょっと走るだけでも倒れてしまう事が多かった愛香里だったが。
凛太朗から逃げるために走って来たのに、全く苦しくもなければ倒れる事もなかった。
こんな事は初めて。
そう思った愛香里は、もしかしたら凛太朗を想い続ける事で元気になれるのではないだろうか? と、秘かに思いはじめていた。
だが、間もなくして太った姉のヒカルが刺殺され、父も刺殺された。
そして凜太郎も転落死したことを知った愛香里は、ずっと自分を責めていた。
私なんかいなくなればいい…。
私がいるからいけないんだ…。
私のせいでお姉ちゃんは太っていた…。
凛太朗さんは、私のせいで転落して死んでしまった…。
そんな思いで自分を責め続ける愛香里は、中学を卒業して大学生になるまでずっと入退院を繰り返していた。
医師からは生命継続には心臓移植しかないとまで宣告されていたが、なかなかドナーも現れず、適合する心臓もない状態でただ死ぬのを待つしかないと思われる日々を過ごしていた。