あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
そのまま副社長室へやって来た奏弥。
聖龍の元にもメールは届いていたが、案外ケロッとした顔をしていた。
「なんだか派手にやってくれたな。彼女の異常さは、相変わらずのようだ」
「昼休み、俺が寝ている所に入って来て勝手にキスして写真を撮ったようだよ。防犯カメラに写っていたから」
「なるほど。だが、彼女は何故お前に執着しているのだ? 」
「中学生からの同級生って言われているけど、俺は記憶にないけど。最近思い出した事があるんだ」
「どんな事だ? 」
「千堂里奈は、途中から転校してきたんだけど。転校してくる前に、彼女らしき人を助けたことがあったんだ」
「助けた? 」
「ああ、歩道橋から転落した中学生がいて。俺と兄貴が通りかかって、声をかけたんだけど。その時の中学生が、似ているような気がするんだ」
なるほど…。
奏弥は少し考えこんだ。
怪我をして助けてくれた人に、恋心を抱くケースはよくあると聞く。
でもこれほど長い間執着し続けるとは…。
「でもさ、俺は助けた部類に入るけど。彼女を助けたのは、神原ヒカルさんだよ」
「え? ヒカルさんが? 」
「ヒカルさんと、傍にいたまだ小学生くらいの女の子が救急車を呼んだんだ」
「小学生? ヒカルさんの妹さんか? 」
「多分そうじゃないかと思うけど、詳しい事は分からない。とても優しい子で、怪我をして血が滴る彼女に上着をかけてあげたりしてたから」
「随分と優しい子なんだね」
「ああ、まだ幼いのにすごいなぁって感心したことを覚えているよ」
「とりあえず、社員達には誤報だと報告する。メールの発信源の調査は、警察に任せる事にするよ。まだ定時には少し早いが、仕事のキリがついたらもう帰った方がいい。社員達が帰る時刻になると、色々と聞かれたり大変だろうから」
「うん、そうするよ」
時刻は16時を過ぎた頃だった。
その後。
聖龍は仕事を切り上げ、16時20分に退社した。
いつもより早い帰りで、何となく得した気分になった聖龍はそのまま金奈総合病院へと向かった。