あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
暫くして。
コンコンとノックの音がした。
「失礼します」
渋くて低めの綺麗な声がしてドアが開いた。
入って来たのは副社長の聖龍だった。
爽やかなグレーのスーツ姿に、茶色い革靴に赤いネクタイ。
奏弥よりも少し背が高くスラっとしている。
美形と呼ぶにふさわしい顔立ちで、サラサラした茶色いショートの髪は、前髪はちょっとだけ目にかかりそうで切れ長の目が引き立て見える。
筋の通った高い鼻がちょっと彫りが深く見え、プルっとした魅力的な唇は吸い付きたくなる。
「この書類、印鑑を押しておきましたので。後は宜しくお願いします」
「ああ、ご苦労様」
奏弥に書類を渡した聖龍は、隣にいるヒカルに目をやった。
「ああ、お前にも紹介しておこう。新しく秘書として来てくれた、城原ヒカルさんだよ」
聖龍はじっとヒカルを見つめたまま黙っていた。
そんな聖龍を見て、奏弥はちょっと驚いた目をした。
「前職でも秘書をやっていたそうだ」
ヒカルをじっと見て黙っていた聖龍が、ゆっくりと奏弥を見た。
「あの…。俺も、そろそろ秘書をつけたいと思っていたのだけど」
「そうなのか? やはり、大変か? 一人では」
「うん…。一人では、大変だから…」
そう言いながら、聖龍はそっとヒカルの傍に歩み寄った。
「城原さん」
聖龍に呼ばれて、ヒカルは手を止めた。
「俺の秘書も、お願いできますか? 」
はぁ?
ゆっくりと顔を上げたヒカル。
聖龍は真剣な眼差しでヒカルを見ていた。
「社長の秘書で大変なのはよく分かります。ついでで構いませんので、お願いできませんか? 」
「ついでですか? 」
「はい。例えば、社長に頼まれて何かお届けに来た時に頼めることをやってくれるとか。毎日のスケジュールだけでも、確認してもらえるとか。その程度で構いませんので」
「そうですか…」
どうしますか? と、ヒカルは奏弥を見た。
奏弥は何となく聖龍が真剣な眼差しでヒカルを見ている意味が、分かったような気がした。