あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「あの子と随分仲よくなって頂いて、とても嬉しいです。私にも、なかなか心を開いてくれませんので」
「いえ、城原さんはとても素直な人なので安心しております」
フッっと小さく一息ついた幸樹。
「気が付かれているかもしれませんが、あの子は私とは実の親子ではありません。あの子の父親と、私は同級生でした。お互い別々の道を進み、私は警察官へあの子の父親は弁護士になりました。お互い親友同士でしたが、別々の道へ進み暫く疎遠になっていましたが。ある事件をきっかけに再会したのです。その事件に絡んでいたのが、千堂里奈でした。あの子の父親は、千堂里奈に殺されてしまったのです」
「え? 本当ですか? 」
「はい。それで、誰も身内がいないあの子を私が養女として引き取りました。刑事を辞めて、父親の仕事を継ぐことにして。出所した人を保護する保護司としてすっと陰ながら犯罪者の支援をしております」
「そうだったのですか。それで、ヒカルさんはどこか遠慮している感じだったのですね」
「私は、あの子を愛しています。でも、その気持ちが伝わらないのがもどかしいです」
ふと、悲しげに目を伏せた幸樹。
「あの子と同じで、養子に来た輝樹と言う5つ上の兄がいます。輝樹も養子で私には遠慮していますが、将来は私の後を継ぐと言って頑張ってくれています。輝樹も、あの子の幸せを願っているのですが」
「そんなに自分を責めないで下さい。きっと、ヒカルさんはお気持ちを分かっていると思います」
「有難うございます。…君は、お父さんとよく似た性格をしているのだね」
「え? 」
小さく笑って幸樹は聖龍を見つめた。
「君のお父さん、宗田奏弥さんと私は大学で同級生だったから良く知っているよ」
「それは意外な話です」
「君のお父さんは、あの子との父親と同じ道を目指して弁護士になったから。私とは別の道へ行ってしまったからね」
「え? それじゃあヒカルさんの本当のお父さんと俺の父は、同級生なのですか? 」
「そうだよ。私よりずっと仲が良くて、付き合いも長いと思う。お互い弁護士になっても、民間弁護士と国選弁護人という真逆の道へ進んでしまったが。とても仲が良くてね、お互い結婚してもよく会って話していたそうだよ」
初めて聞く話しだけど…納得できる事が多いと聖龍は思った。
奏弥がヒカルを家に招き暫く一緒に住もうと言った事、そして、なんとなく奏弥はヒカルの事をほっとけないようだった。
親友の子供であれば、ほっとけなくても当然。
家に呼んだのは、もしかするとヒカルを一人にしておくと危険だと判断したからかもしれない。
「私は子供に恵まれなかったけど、2人はそれぞれ家庭を築き子供にも恵まれ幸せそうに見えていたが。あの千堂里奈のせいで、幸せが壊されてしまったようだね」
なる程。
共通するのは千堂里奈なのか。
聖龍は引っかかっていた謎が解けたような気がした。