あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…

「さやかは死んだそうよ、乳がんだったみたい。出産したら寿命が短くなるって言われたのに、私を産む事を優先したらしわ」
「…そう…」

 凛は里菜をじっと見つめた。

 言われてみると、里菜はさやかと似ている感じだ。
 目元なんかそっくりで、翔次を狙っていた頃のさやかとそっくりに見える。

「あんたは一人だけ幸せになった。母を踏み台にして、自分だけ幸せになった…。許さない! 」

 キラッと、鞄からメスを取り出した里菜は、そのまま凜の胸を刺そうとした!

 だが…。
 誰かにガシッと腕を掴まれとめられた。

「なにするのよ! 」

 怒った目つきで振り向いた先にいたのは、幸樹だった。

「もうやめなさい。こんな事を繰り返していても、君の心か満たされるわけではない」
「離してよ! 邪魔するなら、アンタも殺すわよ! 」
「ああ、殺してもらって構わない。元々、私が君を逮捕した事が気に入らないのだろう? それなら、私に恨みを全てぶつければいい! 」

 なんなのよ!
 何となく里菜は図星を指されたような目をした。

「君は寂しいだけだ。でも、寂しさは人を殺しても埋められない。怒りに身を任せて、人を殺しても。その後は罪悪感しかのこらないだろう? 」

 ドン! と、幸樹を突き飛ばして振り払った里菜。

「綺麗ごと言わないで! 罪悪感なんて、私は持ち合わせていないわ! 邪魔者は殺されて当然! この女は、私の母を踏み台にして自分だけ幸せになっているのよ! 許せるわけないでしょ! 」
「何を勘違いしているんだ。お姉さんである、さやかさんをずっと見守り続け最後まで見捨てなかった人だぞ」
「うそ! 」
「本当だ。さやかさんの代わりに、殺人まで犯そうとしていた人なんだぞ」

 信じられない!
 里菜は凜を睨みつけた。

「さやかは私にとって血が繋がらない姉だったけど。私が、産まれた時からいた人だったから、突き放すことが出来なかった。何故かそうしなくてはいけないって思って手を貸そうとしていたの。でもね、殺そうとしていたターゲットに私は恋をしてしまったからできなかったの。…結局、さやか本人が射殺してしまった結末で…その後はずっと私は罪悪感にかられていたの。それでも、受け止めてくれる人がいたから。今ここに私がいる…」

 なんとなく里菜は凜の話に気持ちがうずいたような気がした。
 罪悪感なんかないと言ったが、何かをけしかけた後には分からない感情が込みあがってくるのは確か。
 それを見たくなくてまた、次の事を仕掛ける事を繰り返している…。
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