あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
里菜は何となくその男性が気になった。
歩いてきた男性は里菜の傍に来ると、ピタッと足を止めて立ち止まった。
なに? 私に何か用?
警戒心で里菜は男性を見つめた。
「…千堂里奈さんですね? 」
「誰? あんた」
「自分は城原輝樹です」
「もしかして、城原コンサルティングの? 」
「はい。父が社長です」
こいつが次の後継者?
こんな顔の奴があの城原コンサルティングを継ぐの?
「すみませんね、こんな顔で話しかけてしまって」
なに? この人。
人の心の声を聞いているの?
「千堂さん、貴女にお話があるのですが。お時間いただけませんか? 」
「私に? 何の話し? 」
「13年前の火災の事と、5年前の火災の件です」
「はぁ? 火災? 」
「はい、貴女が最後にいた千堂家での火災は自分も巻き込まれた被害者なので」
被害者?
まさか、あの汗まみれの男の中にいた?
そんな筈ないわ、あの男達は全員首を切って即死させているもの。
「あれ? 何か心当たりがありましたか? 」
「な、ないわよ! そんなもの」
輝樹は口元でニヤッと小さく笑いを浮かべ、鞄から携帯電話を取り出した。
「これ…千堂家ですよね? 」
ん? と、里菜は輝樹の携帯電話を見た。
すると、何か動画が再生されている。
大きなお屋敷から悲鳴が聞こえてくる、一度や二度ではなく何度も。
そして上着を着た里菜が屋敷から出て来た。
数時間後に戻ってきた里菜は、手に瓶とマッチを持っている。
屋敷を見てほくそ笑んだ里菜は、火をつけてマッチを放り投げた。
そして瓶を屋敷に投げつけた!
爆発音のような音が響くと、屋敷から大きな炎が立ち上がって来て勢いよく目盛り始めた。
動画はガタガタと物音が入っていて、何か走ってくる音が入っている。
間もなくして消防車と救急車が到着した。
「大丈夫ですか? 」
救急隊員の声が聞こえて来た。