あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「大丈夫です…」
そこで映像は終わっている。
里菜は真っ青になっていた。
そんな里菜を見て、輝樹は勝ち誇ったように笑いを浮かべた。
「誰も見ていないと思っても、ちゃんと見ている人もいますよ。千堂さん」
里菜は何も言えず輝樹を睨みつけた。
「自分がここにいたのは、大切な預かり物を取りに行っていたからです。千堂家の、大切な遺言をお預かりしております。この遺言が、今後の貴女の人生に大きく影響すると思われます。もし、悪意にお心当たりがございましたら今のうちに自首する事をお勧めします」
それだけ言うと輝樹は去って行った。
「自首? どうして私が? 悪いのはみんな、あいつ等じゃない! 」
怒りを露にした表情になった里菜は、輝樹を追いかけて行った。
輝樹が階段を下りる時。
怒りの形相でおいかけてきた里菜が、輝樹の背中に手を伸ばした。
と…。
グイッと、里菜の手がねじ上げられた。
「自分はその手はくらいません。…この日をずっと待っていました。…いいですか? これだけは伝えておきます」
ねじ上げた手を乱暴に離した輝樹は、先ほどとは違う怖い目をして里菜を見ていた。
「自分は、きっと貴女と同じ立場です。自分の父親は連続殺人犯だったと聞いています。そして母親は、詐欺師だったと。刑務所で自分は産まれて施設に送られました。そんな自分を、城原さんが引き取ってくれたのです。生い立ちを知った時はショックでしたが、今をどう生きているのかが大切だと言われて。自分は今を大切にしようと決めました。そして、心から愛する人に出会いました。その愛する人は…貴女が殺した、神原ヒカルです…」
え? あのデブを?
信じられない顔をしている里菜を、輝樹は憮然と見ていた。
「あんなデブを好きだなんてと、思ったのでしょうね。世の中、デブ専って言葉だってあるでしょう。でも、自分は心から愛した人がどんな体形であろうと構いませんから…」
「へぇー。それって、自分の顔がそんな顔だから言っているのかしら? 」
小ばかにしたように里菜が言うと、輝樹はフッと小さく笑った。
「そうかもしれません。でも、自分がこの顔になった事を後悔しておりません」
なんとなく輝樹の言葉がグサッときた里菜…。
「では、この辺りで失礼します。いずれまた、お会いすると思います」
そのまま立ち去て行く輝樹を、里菜はじっと見ていた。