あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「…あの…。離れて下さい…」
ちょっと低めの声でヒカルが言った。
「嫌だ…離れない…」
「…いいから、離れて下さい。…これ以上、勘違いをされては困りますので…」
ん? と、聖龍はヒカルを見た。
「副社長はきっと、自分の名前に惹かれているだけです。…ヒカルと言う名前に…」
スッと聖龍を振り払い、ヒカルはゆっくりと起き上った。
それに合わせて聖龍も起き上がり、じっとヒカルを見つめた。
「自分の名前が「ヒカル」という名前だから、何か勘違いをしているだけです」
「俺…名前なんて、どうでもいいけど? 」
「そんなわけないじゃないですか。きっと、副社長は「ヒカル」という名前に、とても思い入れがあるのだと思っています」
聖龍はフッと小さく笑った。
「勘違いしているのは、貴女の方だよ。俺が、名前に惚れ込んでいるって思っているんだろう? それなら、全く違う。俺は、社長室に入った時。まだ、名前も聞いていない貴女を見てハートで感じたから。確かに「ヒカル」という名前には、思い入れがあるけど。それはもう、過去の事だ。今目の前にいる、貴女しか見ていないよ」
そんな筈ないじゃない。
なんで、自分なんか好きになれるの?
そっと、ヒカルは胸に手を当てた。
そうだ…きっと、このことを言えば、いくらなんでも嫌いになる筈…。
そう思ったヒカルは、ちょっと鋭い目をして聖龍を見た。
「…まだ、副社長が見ていない現実。それを聞いても、自分の事を愛しているなんて言えますか? 」
聖龍は黙ったままじっとヒカルを見て何も答えなかった。
「自分は…副社長の、弟の香弥さんの。…大切な命を奪って、生きています…」
一瞬。
聖龍の目がハッとなったが、直ぐに冷静な表情の戻りじっとヒカルを見続けていた。
「生き延びるために…香弥さんの、大切な心臓をもらっています…」
何も言わずにじっと見ている聖龍を見て、ヒカルはきっと嫌われたのだと思った。
怒りが込みあがりそうなのを必死に押さえているから、何も言わないのだろうと…。