夜這いのくまさん


みんなの当たり前は,
私にとっての当たり前ではないと痛感させられた出来事がある。
生まれてからずっと同じ農業と、ちょっとした鉱山から取れる宝石で生計をたてている村で暮らしているが、村を出ていきたくて仕方なかった。そのことを村の同じくらいの年の女性にいうとみんなして首を傾ける。「なんで」と無垢に、それはもう不思議そうに尋ねるのだ。


なんで、と疑問を持たない人間ならばこの村の暮らしが合っていて、幸せなことだろう。
物心を着いた時から少しずつ、村と自分の行く末に絶望していって、今年がその絶望を最も迎える年だった。


結婚。そして、結婚式の日。
旦那の見ている前で別の男に抱かれて穢れを落とす。
村のしきたりであり、風習は決して異を唱えることはできない。


母親は好きな男性がいたらしい、ここから山を超えた10キロ先にあるこの国の大きな都市に住んでいる裕福な男性だった。

初めて手を繋いだのも、キスをしたのも、全て彼だったと。

母は村の中では美しく、18歳になる前に村を出ようとしたが、親に連れ戻され監禁。

結婚式までに脱走を諦め、大人しく村の仲良くもない私の父と結婚。

恋人は探し回っていたのかどうかは不明である。
そして結婚式の当日の夜、村の山に入る小さな小屋に入れられた母はその時の長の息子に抱かれて心を壊した。
当日まで誰が来るかわからない。おもに村長だが、一番初めに小屋に入ったものがその権利を得るのだ。
父は黙ってみていることしかできなく、じっと母が泣きながら抱かれている姿を見ていたらしかった。
涙を行為が終わったあとに拭うことしかできなかったという。涙を拭うその手は震えていたらしかった。
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