夜這いのくまさん

コンコン。扉が叩かれて、思わず動きが止まった。私は返事をする前にすり鉢を一番遠い戸棚にいれ、扉に近づいた。

「シェリー、わたし、シャーレイよ」

こないだ取った紅茶でパウンドケーキを焼いたのだけれど、と照れたように言った。

「開けるわ」

シャーレイは心配そうに俯いていたが、シェリーが出てくるなりぱっと顔をあげほっとしたように目じりの皺を濃くして微笑んだ。

「こんな遅い時間にごめんね、昼間はいなかったから」

「せっかくだから部屋に入っていかない?そのおいしそうなパウンドケーキ二人で食べたほうがもっとおいしいわ」

「嬉しい」

シャーレイをリビングに通す、飲み物は砂糖水にミントとレモンを浮かべた。
彼女は綺麗にラッピングされたパウンドケーキのリボンを解き、並べたお皿にパウンドケーキを乗せた。頬張ると、紅茶の香りが口いっぱいに広がってとてもおいしい。

「この飲み物もおいしい。パウンドケーキに即席で合わせてくれるのは嬉しいわ」

「ふふ、今日は心配してきてくれたんでしょう?あの時、話せなかったから」

シャーレイはきまりのわるそうに頷いた。

「どうして、アーレットと…結婚することになったの?」

「さあ?でも私のところから望んだわけじゃないわ」

私は知らないふりをするように、言葉を濁した。
嫌がらせをしたいのではないか。一生をかけて。
結婚に関する書物を読んで、家とのつながりを強く結び愛に変えるとあった。
アーレットとは一生かけても無理だろう。
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