夜這いのくまさん
アーレットはいつもの凶悪さを臓器の裏側に隠し、きわめて謙虚に笑っていた。
良き夫の代表的なスマイルをしているのだと思うと虫唾が走る。私が隣に来た時、わざとらしく小さな声で顔色が悪いぞと意地悪く笑ったのだ。
新婦と同じように後ろから十字架を背中に背負った村の宗教を取りまとめている管轄の神父がこの日のためにきた。彼は私たちににっこり微笑んだ。
夫婦の掟を読み上げる。
「貴方は夫にその身を捧げ忠実に支えることを約束しますか?」
「はい」
短い間だけれど。そう心の中で呟いた。
「貴方は妻のその身を抱きしめ、守ることを決意しますか?」
「はい」
「書類の署名は寝やの儀が終わりしだい、署名を書いてもらいます。寝やの儀までに清めさせていただきます」
と書類を神父はみなに見せるなり、またくるくると丸めしまいこんだ。
「それでは寝やの小部屋まで新婦と新郎は移動してもらいます」
と高らかに宣言して、婚礼の儀は閉幕したのだった。楽しんでいる村民を尻目に黙って二人は歩いていく。唐突に話を切り出したのはアーレットだった。いつもの不遜な態度で。
「明日からはシェリーは俺の家から出れない。お前の母さんや俺の母さんのように逃げるのは許さない」
前をずんずん歩く彼の表情は見えない。だが、お母さんは病弱ときいていた。