夜這いのくまさん


「アーレット」

「お前の母さんを抱いたのは俺の父親だが、俺の母さんを抱いたのはシェリーの父親だ」

「え」

ー---まあ、俺への当てつけだろうがな。

そう酔いつぶれた父が言っていたのを思い出した。私は思わず立ち止まりその場でうずくまった。
あぁ、だから母はその後、自殺したのか。
父は母の仇を取ったのかもしれない。
だけれど、母は父も同じ村の男として許せなかったのではないのだろうか。

崖から落ちて腕があらぬ方向に曲がっている母を見た。
記憶は定かでないが、たしかにお祭りの数日後母は命を落としたと思った。
私が三軒先の養鶏所のおばさんからパウンドケーキを母と食べた記憶があった。
あの時は少しずつ回復していって、儚げに笑っていた気がする。
近所のおばさんたちは私に見てはいけないと近寄らせなかった。
だけれど、抱えられた腕をすり抜けて母のもとへ駆け寄った。父も呆然と母の手をとって、力なく項垂れていたのを覚えている。

父はもし反対の意思があっても、私の結婚は断れなかったんじゃないだろうか。

なんという業。村の呪いの連鎖。
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