夜這いのくまさん
「ここから10キロ先の」

「10キロ!?危ないじゃないか」

「でもいつも帰っているし…」

彼は睨みつけるように「送る」と凄んだ。私は勢いではい、と頷いた。

夜が迎えに来るように夕焼けと溶け合っていた。徐々に顔を出す星屑はキラキラと輝いて見えた。店はどこもかしこもとじまりをしていて、皆家族とともに夕刻を過ごすのだろう。店の明かりは消え、代わりに住宅街がオレンジ色にぽつぽつ灯るようになる。
シェリーが一人で帰るとき、空なんか見なかったしいつもまっすぐに来た道だけをを見て足早に帰路についていた。彼はどこからか馬を連れてきて、その馬の艶やかな真っ黒な毛並みを見て思わず見惚れた。大事に育ててもらっているのが見て取れる。愛情をたっぷりうけた信頼している顔をしていた。

「俺の愛馬のマフィーだ」

彼は愛おしそうにマフィーの横腹当たりを撫でた。
満足そうにヒヒンと鳴いた。

「のっけてくれるの?」

「ああ」

「ありがとう」

そういえば。

「「名前は」」

同じタイミングで二人が切り出し、はもってしまった。お互い噴き出すように笑う。

「キースだ。しばらくこの街にいる」

「わたしはシェリー。しがない村娘よ。ここに住んでいる方ではないのね」

「あぁ、普段はカナリア国境付近で騎士をしている」

まあ、随分と遠い。が、この街や自分の村と同じ辺境伯が管轄している地域だ。
むしろ、そこが本拠地である。夏は暑く、冬は吹雪くくらい寒いとたしか本で書いてあった。また他国が攻め入られやすい地域であるから、辺境伯というのはかなり頭がきれる方だときいたことがある。そこで編成する部隊も王の周りにいる兵団と匹敵するくらいの層の厚さだと誇っていた。
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