湖面に写る月の環
42
「ご無沙汰してます」
「こちらこそ。二人も、この前はごめんね。突然仕事が入っちゃって、抜けられなくって……」
「い、いえいえ! お気になさらないでください」
「本当に申し訳ない」
眉を下げて頭を下げる彼に、僕は慌てて首を横に振る。
(そんな、気にしなくていいのに!)
「お仕事だったんですから、仕方ないですよ。それより、今日はご招待いただいて、ありがとうございます」
「そう言ってくれて助かるよ。それに、こちらこそ来てくれてありがとう」
上品に頭を下げる岡名。その姿に慌てて頭を下げ返せば、優しい笑みを返された。どこまでも大人な対応に羨望の眼差しを向けてしまう。
「探偵くんも、すまない」
「いや、気にしていない」
岡名の言葉に、探偵少年もふるりと首を振る。ほっとした彼は少し世間話をすると、「そういえば」と声を上げた。
「君たちが丁度来た日、大学でちょっとした騒動があったそうなんだが、巻き込まれなかったかい?」
「「!」」
ひゅっと背中が無意識に伸びる。
(絶対あの時の事だ……!)
探偵少年も気が付いたのか、こちらをすごい目で見たかと思えば、「あー、いや、あのー」なんて意味のない声を発した。誤魔化すにももう少しあっただろうと思うが、それよりも今の状況を打破する方が先である。
(幸い、僕たちが犯人だってバレてないし、このまま知らぬふりを突き通せば――)
「ふ、不審者が通ったらしい! 俺は何も知らない!」
「え? 不審者?」
「あっ、このお馬鹿ッ!」
思った瞬間の裏切に、僕は思わず声を荒げてしまった。この場所にふさわしい言葉じゃない事は明白だが、それよりも混乱に自ら罪を告白しようとしている愚か者を止める方が優先だった。慌てて少年の口を塞ぎ、その場を駆け出す。驚きに呻いていたが、そんな物知ったことでは無い。
「お前、なに自分から名乗りをあげようとしてるんだ!」
「そ、そんなことしてない! 俺はただ、誤魔化そうと……」
「逆にバレるからやめろっ」
「ええっ!?」
「ええじゃない、ええじゃ!」
(そんなわかりやすい反応したら、誰でも気づくから!)
僕は彼に再三にわたり「何もしなくていいから」と伝える。さすがに僕の気持ちも理解してくれたのか、彼はコクコクと頷く。まだ不安は残っているが、これくらいならば大丈夫だろう。
「何二人でこそこそ話してるんだい? 俺も混ぜておくれ」
「「ひいっ!?」」
安堵したのも束の間。にゅっと割り込んできたその存在に、僕たちは悲鳴をあげる。
「こちらこそ。二人も、この前はごめんね。突然仕事が入っちゃって、抜けられなくって……」
「い、いえいえ! お気になさらないでください」
「本当に申し訳ない」
眉を下げて頭を下げる彼に、僕は慌てて首を横に振る。
(そんな、気にしなくていいのに!)
「お仕事だったんですから、仕方ないですよ。それより、今日はご招待いただいて、ありがとうございます」
「そう言ってくれて助かるよ。それに、こちらこそ来てくれてありがとう」
上品に頭を下げる岡名。その姿に慌てて頭を下げ返せば、優しい笑みを返された。どこまでも大人な対応に羨望の眼差しを向けてしまう。
「探偵くんも、すまない」
「いや、気にしていない」
岡名の言葉に、探偵少年もふるりと首を振る。ほっとした彼は少し世間話をすると、「そういえば」と声を上げた。
「君たちが丁度来た日、大学でちょっとした騒動があったそうなんだが、巻き込まれなかったかい?」
「「!」」
ひゅっと背中が無意識に伸びる。
(絶対あの時の事だ……!)
探偵少年も気が付いたのか、こちらをすごい目で見たかと思えば、「あー、いや、あのー」なんて意味のない声を発した。誤魔化すにももう少しあっただろうと思うが、それよりも今の状況を打破する方が先である。
(幸い、僕たちが犯人だってバレてないし、このまま知らぬふりを突き通せば――)
「ふ、不審者が通ったらしい! 俺は何も知らない!」
「え? 不審者?」
「あっ、このお馬鹿ッ!」
思った瞬間の裏切に、僕は思わず声を荒げてしまった。この場所にふさわしい言葉じゃない事は明白だが、それよりも混乱に自ら罪を告白しようとしている愚か者を止める方が優先だった。慌てて少年の口を塞ぎ、その場を駆け出す。驚きに呻いていたが、そんな物知ったことでは無い。
「お前、なに自分から名乗りをあげようとしてるんだ!」
「そ、そんなことしてない! 俺はただ、誤魔化そうと……」
「逆にバレるからやめろっ」
「ええっ!?」
「ええじゃない、ええじゃ!」
(そんなわかりやすい反応したら、誰でも気づくから!)
僕は彼に再三にわたり「何もしなくていいから」と伝える。さすがに僕の気持ちも理解してくれたのか、彼はコクコクと頷く。まだ不安は残っているが、これくらいならば大丈夫だろう。
「何二人でこそこそ話してるんだい? 俺も混ぜておくれ」
「「ひいっ!?」」
安堵したのも束の間。にゅっと割り込んできたその存在に、僕たちは悲鳴をあげる。