湖面に写る月の環

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(どうしよう、結構失礼なこと言ってなかったか、僕……!?)
社会的に殺される!? それとも吊し上げ……!? どちらにしても困るし、やられたくは無い。
流れ落ちる冷や汗を感じつつ、僕は誤魔化すようにケーキを頬張った。手が震えているのは気のせいだろう。
「そ、それより、あいつはどこに行ったんだ?」
「探偵くんのこと?」
「そう」
「彼なら──あっちでご婦人方に囲まれているよ」
「なっ……!?」
(なんだって!?)
指された方へと視線を向け、その姿を捕える。すらりとした姿勢で女性たちの相手をする少年は、いつものような雰囲気ではない。まるで岡名のような余裕を見せた大人の……──。
(い、いやいや。そんなはずは……)
「……あいつ、なんであんな……」
「彼、顔がいいから意外と人気なんだよ」
「ほ、本当に……?」
「妻からの情報だけどね」
楽しそうに笑う彼に、僕は頭を抱えた。“あの“探偵少年が人気だなんて。
(確かに顔はいいけど……)
男はそれだけじゃないだろと言いたくなるが、相手が可愛い子だったら自身も同じ反応をするような気がするので、自分が言えた義理ではないのだろう。悔しさにフォークを皿へ突き立てれば、カツンと甲高い音が響く。乗っていたはずのケーキは、既に食べ終わってしまっていたらしい。
「新しいの取ってきてあげようか」
「い、いい! それくらい自分で出来る!」
ちゅう秋の言葉を蹴って、僕は新しいものを取りに足を踏み出した。──その時だった。
「なッ!?」
「きゃーっ!」
「て、停電!?」
フッと何の前触れもなく消えた灯りに、周囲が阿鼻叫喚に包まれた。何かが落ちる音や、ぶつかった人たちの謝罪のような声があちらこちらから聞こえてくる。周囲の人間が動揺しているのが、見なくても分かるのだから酷いものなのだろう。
「ちゅう秋、いるか?」
「もちろん。君も大丈夫かい?」
「僕は問題ないけど……」
(どうして急に停電なんか)
二次災害が起きないよう動かないまま、僕は周囲を見回した。照明が落ちた今、窓から入る僅かな月明かりだけが光源のようで。
「……ん?」
(今、何か人影が見えたような気が……)
窓の近くに見えた影に、僕は慌てて目を懲らす。しかし、その瞬間灯りが瞬きをするようにチカチカと光り、再び煌々と会場を照らす。眩しさに目を細めてゆっくり開いた時にはもう、そこに人影はいなかった。それどころか人っ子一人いないそこに、僕は首を傾げるしかない。
「どうしたんだい?」
「あ、いや……さっきそこに誰かいたような気がして……」
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