湖面に写る月の環
66
真剣に考えて損したと言わんばかりに目を吊り上げる探偵を見る。相変わらず自分のことしか目に無い彼は、鼻息荒くスプーンで中身を混ぜている。じゃりじゃりと音がしているのが聞こえるが……彼は本当にあれを飲むのだろうか。
「いや、そうとは限らないよ」
「「え?」」
「今回は呼んだ霊の力が大きすぎるんだ」
「霊の力が、大きい?」
「そう」
頷くちゅう秋に、僕は首を傾げる。
(霊って、もしかしてこっくりさんの事を言っているのか……?)
「なるほど。つまり、その幽霊とやらを捕まえればいいのか!」
「いや、そうじゃない」
「んん……?」
探偵少年がよくわからないと言いたげに首を傾げる。ちゅう秋は持っていた荷物を漁ると、カセットテープを取り出した。あまり見る事のない機材が出てきたことに一瞬面食らってしまう。
「これが、どうかしたのかい?」
「まあまあ」
僕は彼の言葉に口を噤む。探偵少年も驚いた様子でカセットテープを見ている。ちゅう秋が「しー」と口元に手を当て、カセットテープのボタンが押される。全員で顔を寄せたのは、無意識だった。
人の喧騒がノイズに混じって聞こえる。大学内、だろうか。聞こえてくる声はどこか若々しく、張りがある。そんな中、喧騒よりも聞き取りやすい声が聞こえて来た。
『真偉、これはどうする?』
『……朝紀はどう思う?』
『うーん、私はこっちの方がいいかなぁって思うな』
『じゃあ、そっち』
『うん、わかった』
「……これは?」
「制作中の会話だろうね。そろそろ文化の日だろう? サークル『みやこ』でもイベントに参加するらしいんだよ」
「へえ」
ちゅう秋の返答に、僕はなるほどと納得する。その間も、四人の会話はテープ越しに聞こえてくる。何だか盗み聞いているようで少し罪悪感があるが、自分から望んだことではないので許して欲しい。
他愛もない執筆の話を聞いていれば、ふと喧騒に混じって不快な音が聞こえた気がした。その音はどうしてか頭に残り、不快感を残していく。しかしそれは徐々に声となっていき、不快な言葉を僕たちに聞かせてくる。それは徐々に大きくなり、強迫観念を催してくる。
『“お前たちのことなど誰も見ていない”』
『“今までしてきたことも、全て無駄だ”』
『“くだらない人生を歩む暇があるなら、さっさと地にでも這いつくばれ”』
「な、なんだこれ」
「すごい暴言だな」
しかも途切れない。つらつらと流れる耳障りの嫌な声に、僕たちは徐々に徐々に嫌な空気が溜まっていくのを感じた。その雰囲気を感じ取ったのか、ちゅう秋はおもむろにカチリとカセットテープのスイッチを切る。しんと静かになる空間に、ちゅう秋の静かな声が響いた。
「いや、そうとは限らないよ」
「「え?」」
「今回は呼んだ霊の力が大きすぎるんだ」
「霊の力が、大きい?」
「そう」
頷くちゅう秋に、僕は首を傾げる。
(霊って、もしかしてこっくりさんの事を言っているのか……?)
「なるほど。つまり、その幽霊とやらを捕まえればいいのか!」
「いや、そうじゃない」
「んん……?」
探偵少年がよくわからないと言いたげに首を傾げる。ちゅう秋は持っていた荷物を漁ると、カセットテープを取り出した。あまり見る事のない機材が出てきたことに一瞬面食らってしまう。
「これが、どうかしたのかい?」
「まあまあ」
僕は彼の言葉に口を噤む。探偵少年も驚いた様子でカセットテープを見ている。ちゅう秋が「しー」と口元に手を当て、カセットテープのボタンが押される。全員で顔を寄せたのは、無意識だった。
人の喧騒がノイズに混じって聞こえる。大学内、だろうか。聞こえてくる声はどこか若々しく、張りがある。そんな中、喧騒よりも聞き取りやすい声が聞こえて来た。
『真偉、これはどうする?』
『……朝紀はどう思う?』
『うーん、私はこっちの方がいいかなぁって思うな』
『じゃあ、そっち』
『うん、わかった』
「……これは?」
「制作中の会話だろうね。そろそろ文化の日だろう? サークル『みやこ』でもイベントに参加するらしいんだよ」
「へえ」
ちゅう秋の返答に、僕はなるほどと納得する。その間も、四人の会話はテープ越しに聞こえてくる。何だか盗み聞いているようで少し罪悪感があるが、自分から望んだことではないので許して欲しい。
他愛もない執筆の話を聞いていれば、ふと喧騒に混じって不快な音が聞こえた気がした。その音はどうしてか頭に残り、不快感を残していく。しかしそれは徐々に声となっていき、不快な言葉を僕たちに聞かせてくる。それは徐々に大きくなり、強迫観念を催してくる。
『“お前たちのことなど誰も見ていない”』
『“今までしてきたことも、全て無駄だ”』
『“くだらない人生を歩む暇があるなら、さっさと地にでも這いつくばれ”』
「な、なんだこれ」
「すごい暴言だな」
しかも途切れない。つらつらと流れる耳障りの嫌な声に、僕たちは徐々に徐々に嫌な空気が溜まっていくのを感じた。その雰囲気を感じ取ったのか、ちゅう秋はおもむろにカチリとカセットテープのスイッチを切る。しんと静かになる空間に、ちゅう秋の静かな声が響いた。