湖面に写る月の環

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「僕は神だ!」
「お兄ちゃんおはよー」
「うむ、おはよう!」
清々しい朝。いつものように高らかに声を上げた少年は、眠気眼の少女に笑みを浮かべる。まるで太陽のようなそれに、妹である少女は目を細めた。相変わらず、自分の兄は元気である。そんなところが好きなのだけれど。
「あっ、そういえば。最近楽しそうにしてたけど、お兄ちゃん何かあったの?」
妹の言葉に少年はたちまち顔を輝かせると、瞬時に駆け寄り、その肩を掴んだ。がしりと。力強く。
「よくぞ聞いてくれた!」
「げっ」
「そんな顔するな! 面白いことがいくつもあったんだ!」
爛々と。目を光らせながら声を上げた彼は、活気溢れた声で事件の一連を話し始めた。
依頼が来た日から始まり、時には話を誇張して、意気揚々と語る彼はまるで子供のよう。否、年齢的には未だ子供であるのだが、最近のことを思うと久しぶりの出来事だった。
地雷を踏み抜いてしまった妹はしまったと言わんばかりに頭に手を当て、しかしその口元は嬉しそうに笑みを浮かべている。その様子を見ていた祖母は、「あらあら」と微笑ましそうにその光景を見ていた。
結局、祖母に遅刻することを諭されるまで彼の話は続いた。話終わる前に来てしまった時間に不服そうにしている少年は、そんな心情とは真逆に満足気に微笑んでいた。
――顔もよく、勉学も出来、運動も並以上に出来る彼にとって、世の中は退屈なものであった。しかし、今回ばかりは違った。自分の予想だにしなかったことがこんなに起きたのだ。世の中もまだ捨てたもんじゃないと思わせるには十分だった。何より、自分の知らなかった世界を知っている人間がいることが一番の収穫であった。
「面白い人たちだな、やっぱり」
陰陽師と名乗る先輩に、一見普通に見えるが“何か”を惹き付ける力を持っている。それはいいものも悪いものも分け隔てなく。
「今度は何を見せてくれるんだろうか」
そう考えるだけで、少年の心は踊る。孤独を忘れたように。
ぽちゃん。


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