とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜
「ハァ…」
街へと向かう馬車の中、私はもう何度目かわからないくらいの深いため息をついていた。
「フローラ、大丈夫よ。私もついてるから、ね?」
「ありがとう、アン」
そんなアンの優しい声かけにコクリとうなずき、私はソッと馬車の窓から景色を見つめる。
普段、行き慣れているはずなのに今日はなんだかいつもと違うように見えるのは、私の心持ちのせいだろうか。
『明日は俺も騎士団に行くよ』そう言っていたロイの言葉を思い返すと気が重い。
ロイはなんて皆に説明する気だろう。
それに私との婚約のことも…。
今日の私は、フロイドしての格好ではなくフローラとして貴族令嬢らしいドレスに身を包んでいた。
口で説明するよりも、皆には見てもらったほうが早いわよ。
そんなアンの提案に乗り、普段の格好をしてきたのはいいものの。
騎士団の皆には初めて見せる姿にどんな反応をされるかと考えるだけで、緊張からか手汗が止まらなかった。
――そうこうしているうちに馬車は騎士団の詰所の前に到着した。
その瞬間。
「なんだ?あの立派な馬車…」
「どこぞの貴族様じゃねーの?こんなところに何の用だろうな」
詰所内にいた団員たちがザワつきはじめ、外に出てくる。その様子を見たアンはあからさまに嫌そうに顔をしかめている。
「まったく、皆ときたら礼儀がなってないわ。野次馬みたいにワラワラ出てくるなんて…」
アンが困ったように頭を抱えるのと、馬車の扉が開いたのはほぼ同時だった。
「お嬢様、アン様到着いたしました」
御者のそんな声かけに私は小さく頷くと、ゆっくりと馬車の外へと足を踏み出す。