とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜
薄暗い馬車の中から、明るい屋外へと出た途端、降り注ぐ太陽の光に少し目がくらんだ。
緊張した面持ちで、騎士団の詰所前に降り立った私。
そんな私を物珍しそうな様子で見る団員たちに私は心の中で小さく息をつく。
「なんの騒ぎだ…?ってアン!?いったいこれはどういう…」
騒ぎを聞きつけて駆けつけた様子のハロルドは、私と、私の後ろから「よいしょっ」と降りてきたアンを見て目を見張っていた。
「兄さん。ただいま」
にこやかに微笑むアンを見つめ、他の騎士団員たちはさらにザワザワと騒ぎ出す。
まさか馬車の中にアンがいるなんて思わなかったのだろう。
お互いの顔を見合わせている見知った顔の騎士団員たちを横目に私はハロルドに向き直った。
そして。
「…ハロルド団長。それに皆、今日は大事な話があって来ました」
おもむろにそう口を開く。
「…その声、フロイドか?」
ハロルドのギョッとした声を皮切りに「今、フロイドって言ったか…?」「いや、俺達の聞き間違いだろ?」と困惑したような表情の皆を見つめ、私はギュッと拳を握る。
その時――。
「ほら!兄さんも皆も、こんな所で突っ立てないで早く詰所に入りましょう。とりあえず、話はそこからよ」
アンのよく通る声が響き渡り、ハロルドをはじめ、他団員たちも「そ、そうだな」と頷いてくれた。
よかった…。アンのおかけで皆にはちゃんと話ができそう。
でも…。キースは…今日、来てないのかしら?
彼女の声かけのおかげで、ようやく詰所内へ足を進めることができ、ほんの少し安堵しつつ、未だに姿が見えないキースのことを気にかけていた。
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「皆、今まで黙っていてごめんなさい。私の本当の名前は、フローラ・キャンベル。キャンベル公爵家の三女で、フロイドはここで騎士団員として過ごすために作った仮初の名前なの」
4年もの間、隠し通してきた事実を話すのにこんなにも勇気がいるなんて…。
今日は偶然にも非番の団員も多かったようで、詰所内は予想していたよりも混雑している。
私の言葉に一瞬、シンと静まり返った詰所内。
やっぱり急に受け入れられるはずないよねと、自嘲的な笑みを浮かべた途端。
「いや〜…。女の子だってのは途中から気づいてたけど、まさかフロイドが公爵家のご令嬢だったとはな〜」
騎士団でもよく話すトーマスがポツリと呟いた。