とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜
その言葉に同意するように、頷く騎士団員たち。
「まぁ、ハロルド団長にとっては妹だとしても、俺にとってフロイドは、娘みたいなもんだなぁ」
なんて、おどけたように言う最年長のマルロのひと声に周りは明るい笑いに包まれた。
「皆、ありがとう…」
4年もの間、正体を秘密にしていたのに、誰ひとり嫌な顔1つしないで私に笑いかけてくれる。
そんな彼らの温かさにキュッと胸が締め付けられる。
だんだんと目頭が熱くなり、うるっと視界に涙がにじんだ、その時―。
「まったく、皆…。俺の婚約者泣かさないでくれるかな?」
ビクッ。
詰所の入口の扉付近から、そんな声が聞こえてきて、私は思わず小さく息を呑んだ。
今の声って…。
ハロルドも、他団員たちも、声のした方向に視線を向けている。
「なんだ、シェスいたのか…!」
「副団長、いたんなら声かけてくださいよ〜」
驚いたような声をあげる団員たちを尻目に、一直線に私の方へと足を進めてくるシェス…。
いや、ロイに徐々に不安が募っていく。
「…つか、副団長さ。今さっき"婚約者"とか言ってなかったか?」
ドキッ。
ふいに誰かが口にしたその単語に、私はサーッと血の気が引くのを感じていた。
「遅くなってゴメン。もう、皆には話したんだ?」
「…っ」
私の前にやって来たロイは、ニコッと私に笑みを向ける。
傍から見れば、見惚れてしまうくらい綺麗なその笑顔。
しかし、今の私にとってはまるで悪魔の微笑みにしか見えなくて。