とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜

そんなロイに向かって「余計なこと言わないで」と口パクで伝えてはみたものの。

気づいてるくせに、どこ吹く風の彼はただ変わらぬ笑顔でそこに佇んでいた。

そんな中、事情を知っているアンだけは、心配そうに私とロイを交互に見つめている。

きっと、ロイの正体を知っている彼女自身もどうすればいいのかわからず困惑しているのだろう。

「えーっと…。シェス、そういえば、さっきの婚約者って言うのは…?」

言いづらそうに、皆を代表して問いかけたのはハロルドだ。

「…ハロルド団長、そのままの意味ですよ。実は彼女、フローラは俺の婚約者なんです。皆にも、今まで黙ってて申し訳なかった。俺の本当の名前は…ロイ・シェラード。シェスはここでの偽名なんだ」

「…!?」

唐突に正体を明かしたロイは、サッと私の隣に立ち、自分の方に引き寄せる。

その力が予想以上に強くて、私は彼に寄り添うような形になってしまった。

どうにかして離れようと試みてはみたが、普段から鍛えているロイの力にかなうはずもなく、最終的にはされるがまま。

…っ!?力強すぎでしょ!?
というか、どんな状況でのカミングアウトなの?
あ〜…もう!本当に無理…!!

心の中で悪態をつきつつ、離れるのは諦めて騎士団員の皆に視線を戻すと…。

ハロルドを始めとする騎士団員たちの目が点になっているのに気づき、思わずヒクッと口もとが引きつってしまった。

「…フロイドとシェスが婚約…?つか、ロイ・シェラードって言うと、シェラード公爵家の…?」

「ロイ・シェラード公爵って言えば、たしか引きこもり公爵って噂のある人だよな。つまり、シェスがその引きこもり公爵本人…?」
< 156 / 173 >

この作品をシェア

pagetop