とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜
スタスタと歩きつつ、お互い視線を合わせようとしない2人の姿にチクッと胸を針で刺すような痛みに襲われる。
私のせいで、ロイとキース関係が崩れてしまったら…。
そう考えると、罪悪感から2人を直視できなくて私は少し俯いてハロルドの後ろを歩いていた。
「……」
静かに成り行きを見守る他の騎士団たちからの視線を感じつつ、詰所内の広間をゆっくりと進む。
その時だった。
「フローラ、大丈夫よ。私もあとで行くから」
すれ違いざま、アンが私に聞こえるくらいの小さな声で声をかけてくる。
ハッとして顔を上げると、真っ直ぐに私の瞳を見つめるアンと視線がからんだ。
アン…。
「大丈夫」と言うようにコクリと大きく頷く彼女を見て、なんだかホッとする自分がいることに気づく。
アンは、私の事情をだいたい理解してくれている。
そんな彼女が近くにいてくれると思うだけで、ほんの少し緊張が和らいだ。
心配してくれる人がいるって、こんなにもありがたいのね。
「ありがとう」
ひと言そう呟き、アンに向かって微笑んだ私。
そして、今度は真っ直ぐに前を見つめてしっかりした足取りで歩き出す。
もう俯かない。
自分で決めた道だもの。
ハロルドにもロイにもキースにも、しっかり私の気持ちを話さなきゃ。
そんな想いを胸に、私はギュッと自分の手のひらを握りしめたのだった。