とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜

「ふっ、器の小さいヤツ」

ボソッと私の隣で呟いたのは、キースだ。

わざと私やロイに聞こえるくらいの声量で嫌味をこぼす彼に肝が冷える。

「…キース、今なんか言った?」

「別に?何も言ってねーけど?」

終いには私を間に挟んで、口ケンカを始める2人。

「うちの家系は、耳いいんだよね」

「あぁ…なるほど地獄耳ってことか?」

…っ!?

これ以上いくと、よけいに収集がつかなくなる。

そう悟った私は、隣に座るキースに向かって勢いよく頭を下げた。

「キース、ごめんなさい!あなたが怒る気持ちもわかるわ。私がしたことは最低だったもの。キースに何の説明もなく、良心を利用するようなマネをして本当にごめんなさい…」

現在、怒りの矛先がロイに向いてはいるが、そもそものキッカケは彼に自分の正体を隠したうえで、恋人役を頼んだ私のはず。

私からの突然の謝罪に対して、一瞬キースは驚いたように目を丸くした。

しかし。

「違う。俺が怒ってるのはそんなことじゃねーよ!ただ…っ」

そこまで言って、なぜかキースはぐっと押し黙ってしまう。

「ただ…?」

彼の言いかけた内容が気になって、ジッとキースを見つめてみるものの、バツが悪そうに視線をそらされた。

さっきの彼の言葉から、私が正体を隠して恋人役を頼んだことに対して怒っているわけではなさそうだ。

でも…。

じゃあ、いったい何に怒っているのだろう。

それは、私に言いにくいこと…?
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