とある公爵令嬢の華麗なる遊戯〜私、絶対に婚約破棄してみせます〜
「は?」
「どういうことだ…?」
ハロルドとキースが呆気にとられたように、小さく声をあげたのは同時だった。
「それって…」
"いったい誰なの?"と、ロイに問いかけようと私が口を開いた瞬間。
「俺ですよ」
そんな聞き覚えのある声が背後から聞こえてきて、私は反射的にそちらを振り返る。
すると、見覚えのある赤い髪が視界に飛び込んできて、思わず言葉を失ってしまった。
嘘…。ジャック!?
そう。壁にもたれて立っていたのは、人をおちょくるのが好きで、騎士団内ではムードメーカー的立ち位置。
そして、私達にとっては兄のような存在だと思っていた、ジャックだった。
というか、いつの間に部屋の中に…?
先ほどまではたしかに、私、ロイ、キース、ハロルドの4人しかいなかったはずの団長室。
私達の誰にも気づかれずに、部屋の中に侵入するなんて…。
それだけ隠密の技術に優れているのだろうか。
どちらかと言えば、いつもノロノロと歩いている彼からは想像もできない早業だ。
「ったく、ロイ様。急に俺のこと紹介するのやめてくださいよ〜。どうせならもっとカッコよく登場したかったのに」
ハァ…と、小さくため息をこぼし、ジャックは気だるげに私達が座っているソファに近づいくる。
普段は"シェス"と親しげに呼んでいた彼から、今さら"ロイ様"なんて言葉が出てくるなんて信じられなくて、私は目を見張った。