婚約者の浮気相手が子を授かったので
プロローグ
「ファンヌ。聞いてくれ。アデラが子を授かった。だから婚約を解消して欲しい」
リヴァス王国の王宮内にある応接室。赤系統の色で統一されたこの部屋は、見るからに華やかである。壁の赤い花柄のような模様にもよく見れば金箔が施されており、部屋の中央からぶら下がっているシャンデリアがきらきらと揺らめいている。
この応接室でファンヌと呼ばれた少女は今、彼女の婚約者でありリヴァス王国王太子のクラウスと、大理石のテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
ファンヌが座っているソファも赤いし、二人を隔てている大理石もワイン色のもの。
本来であれば、婚約者同士である二人は並んで座る関係である。だがクラウスの隣には、豊かな茶色の髪をうねらせている妖艶な美女――アデラがいた。彼女のことはファンヌも知っている。クラウスが熱をあげている女性だ。確か年はファンヌの三つ上で、クラウスよりも二つ上の二十一歳であったと記憶している。
ただ、クラウスにはファンヌという婚約者がいるのだから、アデラは浮気相手に該当する。
彼が困ったように髪の毛をかき上げると、指の隙間からさらさらと金色の髪が零れ落ちる。
「左様ですか、おめでとうございます」
感情を押し殺した声で、ファンヌはその言葉を口にした。
「おお、ファンヌ。君もそう思ってくれるか」
茶色の目を大きく見開いたクラウスは、ぐっと身を乗り出してきた。ファンヌはそれを両手で制してから。
リヴァス王国の王宮内にある応接室。赤系統の色で統一されたこの部屋は、見るからに華やかである。壁の赤い花柄のような模様にもよく見れば金箔が施されており、部屋の中央からぶら下がっているシャンデリアがきらきらと揺らめいている。
この応接室でファンヌと呼ばれた少女は今、彼女の婚約者でありリヴァス王国王太子のクラウスと、大理石のテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
ファンヌが座っているソファも赤いし、二人を隔てている大理石もワイン色のもの。
本来であれば、婚約者同士である二人は並んで座る関係である。だがクラウスの隣には、豊かな茶色の髪をうねらせている妖艶な美女――アデラがいた。彼女のことはファンヌも知っている。クラウスが熱をあげている女性だ。確か年はファンヌの三つ上で、クラウスよりも二つ上の二十一歳であったと記憶している。
ただ、クラウスにはファンヌという婚約者がいるのだから、アデラは浮気相手に該当する。
彼が困ったように髪の毛をかき上げると、指の隙間からさらさらと金色の髪が零れ落ちる。
「左様ですか、おめでとうございます」
感情を押し殺した声で、ファンヌはその言葉を口にした。
「おお、ファンヌ。君もそう思ってくれるか」
茶色の目を大きく見開いたクラウスは、ぐっと身を乗り出してきた。ファンヌはそれを両手で制してから。