婚約者の浮気相手が子を授かったので
第六章
 クラウスはイライラしていた。イライラの原因が『製茶』の工場にあることはわかっている。
 ファンヌと婚約解消をして三か月。たったの三か月だ。
 にも関わらず、『製茶』の工場で働いていた作業員は全て辞めてしまった。仕事を辞めたら金に困るだろう、給料を上げてやると口にしても、誰一人残らなかった。
「くそっ……」
 クラウスは今、シンと静まり返った工場の片づけをしていた。彼を手伝うのは、手の空いている臣下のみ。もちろんこの工場の責任者として名指しした彼もいる。
 クラウスの頭には、国王の声がずっと繰り返し響いていた。
『失態だな、クラウス。さっさと工場を片付け、次の案を考えろ』
 次の案と言われても、何をしたらいいかがわからない。働く者がいなければ、働く者を雇えばいいと思った。だが『製茶』は一朝一夕で行うことができる仕事でもない。熟練された作業者から教えてもらう必要がある。その熟練された作業者が誰もいないのだ。
 もうこの工場で『製茶』を行うことはできない。
 人のいなくなった工場には『製茶』で使われる器具が散乱し、材料となる茶葉や薬草がツンと鼻につく(にお)いを放っていた。顔を布地であてがっても、鼻につく臭いは体内に入り込んでくる。
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