婚約者の浮気相手が子を授かったので
「『研究』だったら、王宮でもできるのではなくて?」
「いいえ。お母様。王宮で『研究』はできないのです。今まで私が開発したお茶を量産することばかりで、新しいお茶の『研究』は一切していないのですよ」
 ファンヌが調茶したお茶の効能は高いとされている。よく眠れるお茶、不安を取り除くお茶、疲れをとるお茶などが人気だ。それらのお茶は王宮の近くにある工場(こうば)で大量に製茶されていた。
 つまり、国王がファンヌを手元に置いておきたいという理由が、ファンヌの調茶能力の高さなのだ。彼女が調茶したお茶を売ると、売れる。ようするに国庫が潤う。単純な理由。
 そのお茶の量産に力を入れているため、ファンヌは新しい調茶の『研究』をする時間が取れなかった。また、合間に将来の王太子妃として相応しい知識や姿勢を身に着けるための教育の時間もある。この王太子妃教育こそ、ファンヌにとっては興味の無い時間の一つでもあった。
「あの陛下がどう動くかが心配だが……」
 ヘンリッキは腕を組んで顎に手をかけた。父親の気持ちはファンヌもよくわかる。むしろ、家族のために興味の無い男と婚約をしたくらいの彼女なのだから。
「ですが、今回はクラウス様が望まれたこと。それにアデラ様もご懐妊なさっておりますから」
 そんな二人を引き裂くようなことは、いくら国王でもしないだろうと、ファンヌは思っていた。何しろクラウスの血と『魔力』を引き継ぐ子がアデラのお腹の中にいるのだから。
「まあ、クラウス殿下がファンヌに興味を持っていないことは、私たちも気付いていたからな」
 エンリッキが苦笑を浮かべると、ハンネスも目を伏せる。家族にも知られていたようだ。ファンヌが婚約者から愛されていなかった真実を。そしてファンヌも彼を愛していなかった事実を。
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