婚約者の浮気相手が子を授かったので
「さすがに陛下も、正式に婚約解消された二人を、また婚約させるという暴挙はなさらないのではないかしら?」
 黙って話を聞いていたヒルマがゆっくりと口を開いた。
「神殿に書類を提出して、それが正式に受理された。これが何よりの証拠よね。つまり、これによってあなたたちの婚約解消は、街中の人たちに知れ渡っていくわよ。こんな世の中ですもの。少しでも刺激のある話題は、彼らの大好物」
 ヒルマの話を聞いて、ファンヌは考える。
「この場合、私はクラウス殿下に捨てられた可哀そうな人間に認定されるのでしょうか。それとも婚約者をアデラ様に寝取られた間抜けな人間に認定されるのでしょうか」
 人々の話題にあがるのはかまわない。むしろクラウスの婚約者に決まった時も、その話はぶわぁっと人々の間に広まったのだから。
 さすがオグレン侯爵家という声もあれば、あの地味娘がという声もあり、できるだけ気にしないようにファンヌは努めた。もちろん婚約者に選ばれた当時は学校にも通っていたため、その両極端の声が直にファンヌに襲い掛かっていた。
 それを庇ってくれていたのが、ファンヌの師であるエルランド・キュロ教授であった。エルランドはファンヌが周囲に翻弄されずに『研究』に打ち込めるようにと、そういった声や物理的接触から遠ざけてくれた。
< 13 / 269 >

この作品をシェア

pagetop