婚約者の浮気相手が子を授かったので
第七章
 アデラの部屋の扉を乱暴に開け放ったクラウスは、足を投げ出してソファでくつろいでいたアデラの元へずんずんと近づいた。この部屋はアデラが言うがまま、揃えた物が多い。
 広くて豪勢な寝台。ゆったりとくつろげるソファ。大きな窓のカーテンは、昼間も日光を遮ることができるようにと厚手で暗い色のもの。
 アデラは基本的にこの部屋から出ようとしない。妊娠中だから、お腹が大きくなってきたから、それが理由だ。
 だがクラウスはアデラに王太子妃としての教育を受けてもらいたかったし、クラウスの仕事の手伝いもして欲しかった。
 医療魔術師が言うには、アデラも安定期に入ったため、様子を見ながら執務に携わることができると口にしていた。だからクラウスは、書類の整理をアデラに頼もうとしたのだ。
 だが、彼女はすぐさま断りを入れた。
「ずっと立っているのは、辛いのよ。ほら、お腹も大きくなってきたでしょう?」
 座りながらでもいい、とクラウスが口にすると。
「すぐに眠くなってしまうの。妊娠すると、眠くなるみたい」
 欠伸をしながらアデラは答えた。
 何かを頼もうとすれば、「眠いから」「お腹が重いから」と、そんな理由で断られてしまう。せめて王太子妃教育をと思い、彼女に本や資料などを手渡せば「頭が痛くなるから」と口にして、それらに目を通そうともしない。
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