婚約者の浮気相手が子を授かったので
第八章
 それができたのは、ほんの偶然だった――。

 クラウスが工場の片づけを行い、残った茶葉や薬草を臣下と共に袋に詰め、手の空いている者にごみ置き場へ持っていくように、と依頼したのがきっかけだ。
 袋にぎゅうぎゅうに詰められた薬草の残骸は、想定していたよりも重かった。だから、騎士団に所属している若手に声をかけた。
 彼らは一度に袋を二つも運ぶことができる。となれば、数人で全ての袋を持っていくことができる。このごみは、茶葉や薬草の残りということから、畑の堆肥にすることを庭師が考えているようだった。
『悪いが、それはごみ置き場ではなく、こちらに持ってきてくれ』
 庭師長が、袋を手にした騎士に指示を出す。堆肥にすることから、庭の端に大きな穴が掘ってあった。騎士たちは袋を開け、その穴に袋の中身をぶちまける。
 独特の腐った臭いが、周囲にもわんと立ち込めた。
『うぅっ……』
 一人の騎士が、その場で地面に膝をついた。このような臭いで倒れるなどもってのほかだと、他の騎士は口にする。
 だが、膝をついた騎士の様子はおかしい。目が意思を失ったかのようにトロンと半開きになっている。口もだらしなく開き、野犬のように唸り始めていた。
『おい。どうしたんだ』
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