婚約者の浮気相手が子を授かったので
 ローテーブルを挟んで向かい側に座っているクラウスは、ぴっと背筋を伸ばして両手を膝の上において視線を下に傾けていた。
『は、はい……』
 視線を目の前の国王から逸らしたまま、クラウスは答えた。
『その者はベロテニアの血筋の者であったと報告を受けたが……』
『そ、その通りです。ですが、他の任務には影響を与えないため、数日ほど休ませてから、復帰させる予定です』
 ふっと国王は鼻で笑う。
『相変わらず、お前は詰めが甘い。そのような者、さっさとクビにすれば良いものを』
『ええ、私もそう思ったのですが。騎士団長の方から、懇願されまして。人手不足を理由にされました』
 騎士の人手不足。なぜかぽろぽろと騎士を辞める者が続いている。彼らは辞めた後、さらに王都パドマから去っているという話も、騎士団長から聞いたことだ。
 国王はグラスに口をつけ、琥珀色の液体を一気に飲み干した。空になったグラスを手にしたまま、国王は視線をクラウスに向ける。
『パドマから人が減っていることを、お前は知っているか?』
『は、はい……』
 クラウスが答えると、バリンとガラスの割れる音がした。国王の身体は震え、彼の手の中にあったグラスは粉々に砕け散っている。怒りで身体を震わせているのだ。
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