婚約者の浮気相手が子を授かったので
『ファンヌがいなくなってからだ。全てはそれが始まりだ。工場は潰れ、パドマから人が消え。挙句、お前の子を授かったといった女はどうした? 見事、逃げられたではないか』
『それは……』
 全てが事実であるため、反論する余地もない。
『ベロテニア、ベロテニア、ベロテニア……。どこもかしこもベロテニアだらけだな』
 忌々しげに国王はベロテニアの名を口にした。
 ファンヌがベロテニア王国で暮らしていることは、国王もクラウスも知っている。
『クラウス。そろそろファンヌを連れ戻してきてはどうだ? 彼女もお前と離れて、少しは頭も冷えただろう』
 だが、彼女と離れて頭が冷えたのはクラウスの方だった。離れて初めて、彼女の必要性を感じた。でしゃばるようなこともせず、だからと言って受け身でもない。先のことを見据え、他人のことを思いやっていた彼女。
 初めて出会ったときに、彼女はクラウスに笑いかけてくれた。だが、それ以降、彼女の笑顔を見ることは無くなった。
 なぜだろう。
『しかも、新しい()もできたそうだしな。ベロテニアの者によく効く……』
 国王の言葉で、クラウスははっと顔をあげた。
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