婚約者の浮気相手が子を授かったので
◇◆◇◆

 雪の降る季節が終わりを迎える頃、朝も次第に温かさを増してきた。まだ、霜がおり雪がちらつくときもあるが、昼間の風はどこか気持ちのいい風だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
 髪の毛をハーフアップにし、風になびかせながら歩いているのは、ラベンダー色のワンピースに白い薄手の上着を羽織っているファンヌである。その隣にいるのは、もちろんエルランドだ。
 彼は、ファンヌとの婚約を決めた直後、長ったらしい前髪を、短く切り揃えた。そして、彼のトレードマークでもあった銀ぶち眼鏡をかけることもやめた。
 エルランドが言うには、ファンヌを直視することを避けるために、前髪で視界を狭め、眼鏡をかけていたらしい。それが彼にどのような効果を与えていたのか、ファンヌにとってはよくわからないが、気持ちを抑えるためには必要な処置であったとのこと。
 だが、ファンヌと婚約したから、もう気持ちを抑える必要は無いと判断し、前髪を切り眼鏡を外した流れになる。
 婚約してからというもの、毎朝二人で王宮管理の薬草園を散歩することが日課となっている。もちろん薬草園の薬草の生育を確認すると共に、薬草摘みの者たちに労いの言葉をかけるのも忘れない。たったそれだけのことであるのに、薬草摘みの者たちは感謝の言葉を口にし、必要な薬草を二人に分けてくれる。
< 172 / 269 >

この作品をシェア

pagetop