婚約者の浮気相手が子を授かったので
 散歩から戻ってくると、適度に空腹を感じるためか、朝食がはかどるのだ。
「毎日、こんなに食べたら太ってしまうわ」
 ファンヌはそう言いながらも、美味しい朝食に手が止まらない。
「ファンヌ様は、もう少し太られた方が良いかと思いますよ」
 最近、肩こりの悩みから解消されたカーラは、ファンヌのお皿にお替りのパンを一つのせた。
「あぁ……。カーラが私を誘惑する」
「誘惑ではございません。必要な量です」
 身体が軽く感じるのだろう。カーラは、以前にも増して勢いがある。
「オレも、もう少し肉がついた方が好みだ。抱き心地が違うだろう」
 エルランドが率直な意見を口にすると、ファンヌはじっと睨みつける。
 エルランドはなぜ自分が睨まれているのか、理由がわからない様子。
 何かを感じ取ったカーラが、エルランドに声をかける。
「旦那様、またお野菜の方に手がつけられていないようですが」
 皿の隅に残しておいた野菜を、目ざとく見つけたようだ。するとファンヌは、彼のために作ったドレッシングに手を伸ばし、残っていた野菜に少しかける。
「こちらのお野菜なら、このドレッシングが合うと思います」
 テーブルの上の籠には、ファンヌが考えたドレッシングが四種類置かれている。
 不機嫌そうに口元を歪ませたエルランドであるが、しぶしぶとフォークを動かし始めた。そんな二人の様子を、笑みを浮かべたカーラが見守っている。ファンヌもエルランドのフォークの行方を見守っていた。
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