婚約者の浮気相手が子を授かったので
 野菜をのせたフォークが、エルランドの口の中に入る。ゆっくりと噛みしめている彼だが、いつものように口元を歪ませるようなことはしない。
「どうですか?」
 不安そうにファンヌが尋ねると、エルランドは次々と野菜を口に運んだ。その様子を見て、ほっと胸を撫でおろし、カーラに視線を向けると、カーラも嬉しそうに微笑んでいた。
 最近、解熱薬の苦みを抑えることに成功したファンヌは、その応用で甘みの強いドレッシングを作っていたのだ。それはもちろん、エルランドが嫌がらずに野菜を食べるようにと考えてのこと。
「ファンヌ。このドレッシングは、この野菜と合う。これなら、いくらでも食べることができる……、かもしれない」
「本当ですか? ちなみにこのドレッシング。野菜の甘みを増すだけでなく、疲れをとる効果もあります」
 ファンヌが作るものの材料は、薬草や茶葉ばかりである。それらの効能を高めるために調合して、味を整えて、ドレッシングとした。
「だったら、これも工場の方で作らせてみるか?」
「そうですね。他の人の意見も聞いてから……」
 ファンヌは視線を手元に戻した。エルランドはファンヌの作ったものを真っすぐに褒めてくれる。あまりにも真っすぐすぎて、恥ずかしいと思うときさえある。
 それに、先ほどのように自分の気持ちにも正直だ。何も、そんなことまで言わなくてもいいのに、とファンヌが思うことも口にしてくる。
< 174 / 269 >

この作品をシェア

pagetop