婚約者の浮気相手が子を授かったので
「ああ、そうだ、ファンヌ。今日は、父から呼ばれていたのだが……」
「でしたら、終わるまでお待ちしておりますよ。リサにも誘われていたので」
「違う。君もだ」
 国王から呼び出される内容に心当たりのないファンヌは首を傾げることしかできなかった。
 仲良く朝食を終えた二人は、いつもであれば王宮にある『調薬室』と『研究室』へと向かい、そこで仕事を行う。だが今日は、朝一で国王からの呼び出しに応える必要があった。
 数えるほどではあるが、国王とは世間話をするために、一緒にお茶を飲んだことはある。だが、改めて呼び出しとなれば、話しは別だ。どこかピリッと気持ちが引き締まる思いがする。
 それでも隣を歩くエルランドがいてくれるだけで、どこか力強い。
「どうかしたのか?」
 ファンヌの視線に気づいたエルランドは、そう声をかけながら、握る手に少し力を込めてきた。ファンヌもお返しと言わんばかりに、きゅっと力を入れる。
 こうやって手を繋いで歩くことにも慣れた。婚約したばかりのときは、並んで歩くことさえ恥ずかしかった。だが、周囲の目は温かいし、エルランドと婚約したことを、誰もが喜んでくれる。
 気持ちを伝えてからというもの、彼の体温を感じたくなることが突如と起こるのが不思議だった。もしかしたら、そうすることで彼が側にいるという証が欲しいのかもしれない。
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